第15話 黒の過去
彼の秘密を、多少強引だったことは否めないが暴いたあの日からエディは俺の前ではその瞳を出すようになった。
日の光に照らされ、ゆらゆらと灯火が揺れ動く様は美しい。
それに合わせるように、彼の表情も前より随分と豊かになった。
今までその顔の殆どが隠されていたため、声のトーンや雰囲気からしか彼の表情を読み取ることが出来なっかったが……うん。これは子供達にはいいとしても士官学校の奴らや上の腐った害虫共には見せては駄目だな。
俺より二つも歳が下のだというのに、何故こんなにも色香があるのか謎だ。
特に寝起きは目に毒だ。
そこに女性的な美しさは余りないにも関わらず、誰もが目を奪われてしまうのではないかと思わせる色があった。
春の日溜りのような温かさに花のように甘やかな香に誘われ、一度知ってしまえば己の内に囲い込んで守ってあげたくなるような、そんな何か。
それを無駄に権力や財力を持つ奴らが知ってしまえばどうなるかなんて考えたくもない。
まぁ、彼が今それを見せるのは俺だけだからまだ考えなくてもいいか。
だが、それよりも今は俺自身の事も考えなければならない。
「はぁ…」
「大丈夫か?」
「“一度”戻ったら、すぐにここに帰ってくるからな」
今朝、ここに来客があった。
エディが来客者の対応をする際に子供たちが彼の邪魔をしないよう皆で静かに遊んでいたのだが、例え来客があったとしてもここまで長い時間話し込むなんて珍しい事だった。
子供たちに静かに待っているよう伝え玄関に向かえば、エディはローブを目深に羽織った誰かと話しているところだった。
話の内容までは聞き取れなかったが、エディの口が何かを耐えるように引き結ばれているのが見えた。
それに思わずエディの側に駆け寄り、来客者の顔を近くで見て驚いた。
「____様」
「ディーノ」
父の秘書であり俺の世話役でもあった男が、眉を下げ困ったような泣きそうな顔でそこに立っていた。
「その名前で呼ばないでくれ。何故、ここにいる?」
「失礼しました。ここにはコルラード様の伝言をお伝えに参りました」
「父は何と?」
「はい。『そろそろお前も正式に社交の場に出るべきだと判断した。明日には戻りなさい』との事です」
父にしては随分と急な話だ。
上の連中か他の貴族連中に何か言われたか、はたまたその両方か。
「分かった。明日“一度”戻りますと伝えてくれ」
「承知いたしました。それと、こちらをどうぞ」
「…こんなに沢山の果物、どうしたんだ」
「先程購入した果物です。これは、
そう言って、ディーノは深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
様々な感情が、その一言に込められているようだった。
その全てを理解はできなかったが、その中に俺も入っているのは分かった。
「俺は俺が出来ることをしているだけですよ」
エディに促され、顔を上げたディーノの目には涙の膜が張っていたが、どこかスッキリとした表情だった。
幼い頃から何度となく見てきた顔には深い皺が刻まれ、髪も心做しか白髪が更に増えている気がする。
それだけ長い間、彼は俺たち家族を近くで支えてくれていた。
ディーノから果物の入った籠を受け取ると、彼は再度深く頭を下げ、帰っていった。
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