第10話 黒の過去

まるで呪いのようだ。


自分の名前を呼ばれるたびにいつも思う。


家が権力者の家系だからと一人息子の俺に媚び諂うしか脳のない奴らめ。


俺という個人を見ず、名前だけを見る奴らに反吐が出る。


それに俺は、この国のあり方も大っ嫌いだ。


「父さん。この国に護る価値なんてあるのか?」


「上の奴らは皆腐ってる。本来護るべき民から税を奪いあげ、嘲笑い踏み付ける。護るための強さを学ぶ筈の軍事学校でも、己の欲のために媚びを売る奴らしかいない…そういうことか?」


「うん」


そうだなぁ、と重たい上着を脱ぎながら、父さんはどんよりと暗く沈んだ空を見上げたていた。


「正直に言うと無いな。この国の民は皆手を取り合い助け合いながら日々を過ごしているが、上の連中は手遅れだろう。


己の欲望を満たす快楽を知り、それの虜となり傀儡と化しているからな」


「そう…」


俺の父は、国に用意された権力という名の椅子にただ居座る無能共とは違い、国ではなくこの国に住まう民を護ることに力を使う人だ。


それを疎ましく思う奴らもいるが、民からの信頼が厚く武力は勿論、軍の指揮官としても腕の立つ父が消えれば困るのは無能共の方だ。


だから奴らは息子を媚びらせ娘を嫁にと纏わり付く。


本当に、くだらない連中だ。


毎日毎日行く先々では纏わり付き、実践訓練では俺の後ろに隠れ心にもない世辞を述べる。


明日もまた、つまらない一日になるんだろう。


眠りたくない。眠ったらまた明日が来てしまう。


「それよりも、ちゃんと寝ないといつか倒れるぞ」


「分かってるよ」


「……お前にも、ちゃんとお前自身を見てくれる人が必ず現れる。父さんが母さんと出会い惹かれ合ったようにな」


「……。」




その日の夜は、いつも以上に眠れなかった。


父さんの言っていた通りの、俺だけを見てくれる奴なんて本当に現れるんだろうか。


ただでさえ名前が目立つ上に愛想もない。父親譲りの目付きの悪さに赤い瞳の俺なんかに。


どうせならこの金髪じゃなくて、顔付きや雰囲気が母親に似たかった。


あの優しく穏やかな雰囲気は心地よく、周りには母を慕う者が多くいる。


病に寝込んでいる今もそれは変わらず、いつだって俺を優しく受け入れてくれる。


それが俺にもあればもしかして、なんてな。


「明日なんて、来なければいいのにな」


毎日が同じ日々の繰り返し。


何の刺激もなく俺を見てくれる人も理解してくれる人もいない。


「(つまらない)」


何度目かもわからないため息が溢れる。


この胸の乾きが癒える日が来るかなんて、どんなに考えたって答えは出ない。

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