第8話
やはり俺はこの世界に、もし存在するなら神とやらに随分と嫌われているようだ。
店内に飛び込んでくるなり荒々しく叫び散らし、粗悪な改造拳銃を振り回して周囲を威嚇した。
悲鳴を上げテーブルの下に隠れ身を守る来店客と店員達。
顔は覆面で隠され見えないが、体格や足の運び方からして二十代前半くらいだそう男四人組は拳銃のほかに大振りなボストンバックを持っており、わずかに開いたチャックの隙間からは札束がはみ出ていた。
大方、強盗に成功はしたが警察の追跡から逃れられずに立てこもりにシフトチェンジしたのだろうが、何故ここを選んだ?
周囲には木々しかなく建物も少ない。
警察の追跡から逃れるなら、大通りの方がまだ可能性はあるはずだが。
こんな場所にわざわざ逃げ込むか??
頭悪いんじゃないだろうか……。
迷惑です。ご退場しやがれ下さい。
強盗犯のリーダー格らしい男…もう面倒くさいからAでいいか。
Aはシャッター、この店の場合はレースを基調とした可愛らしいカーテンを閉めるようにほかの三人B、C、Dに指示を出した。
俺と彼が座っていた席は窓側だったため、必然的に彼らの視界に入ってしまうだろう。
彼を席から立たせ、俺と壁で挟む。
これで正面からは俺が盾になれるし、背後は分厚い壁だ。多少なりとも何も無いよりは多少ましだろう。
「チッ、来るのが早いな。人質使って逃げきれるか」
忌々しそうに呟くAの言葉通り、外からは警官の声が聞こえてきた。
「でも俺達運がいいよな~、こんなところに店があったし客も店員も女子供しかいない」
「なら、このガキ共がいいんじゃないか?ガキなら荷物になんないだろ」
止めろ見るな来るな潰すぞ??あと顔出すな気持ち悪いから。
「ほ~ら、お兄さんは怖くないぞ~」
「おい馬鹿!」
ホントに馬鹿野郎だよな?強盗犯が普通顔見せるか?
それに拳銃をチラつかせながら怖くないって言っても説得力の欠片もない。
普通の子供なら泣き出すぞ。
強盗犯が顔を見せるのは諦めたか自棄になったか。それか見せた相手を殺すかただの馬鹿か。
………まぁ、ただの大馬鹿野郎なだけだろうな。
「兄弟か…いいねぇ、メディアが食いつきそうだ」
「こっちの黒髪が兄貴か?
だったらこっちを適当に痛めつけてボロボロの雑巾みたいにして、そんな兄を見て泣き叫ぶ弟……なにそれめっちゃ映えそう!」
馬鹿もここまでくればある意味一種の病気だな。
呆れを通り越して哀れみすら浮かびそうだ。浮かばないけど。
「あ、でもさぁ…」
「こっちの金髪の方が良くない?」
「あー、確かにお綺麗な顔をぐちゃぐちゃにたらもっと映えそうだな」
あろうことか、こちらへと近づいてきたソイツは俺の背後の彼に銃口を向けた。
「(は?)」
重なる。
総統という立場で戦場や基地内に侵入したスパイや暗殺者から銃口を向けられていたあの人に。
思い出す。
銃口から弾丸が飛ばされ、彼へと迫りくるのを見た時の恐怖を。
思い出せ。
彼を守ろうと誓ったあの日を。俺の持ちうる力の使い方を。
倒せ。
あの人の敵を。あの人を脅かそうとする敵意を。
「それじゃぁ、弟君は大人しく……」
「触るな」
ゲラゲラと品のない笑い声も、こちらを奪われるだけの弱者だと下に見る奴らも、不快でしかない。
「大丈夫だよ~、少し痛いだけだから」
「うるさい。黙れ。その臭い口を開くな屑が」
拳銃を突き付ける男の手首を掴む。
力を加えるたびにギチギチと音が鳴っている。
子供の握力など大人にとっては痛くもかゆくもないだろうが、人体の中でも特に細く切り落としやすいといわれている手首だ。
子供の力でも簡単に掴める。
「おい、ガキ。調子に乗ってんじゃあっ?!」
掴まれていた男は、その顔を驚愕に染めたまま動かなくなった。
正確に言えば、動けなくなったが正しいだろう。
「何も分かってないド素人共が」
「手前ぇ、異能力者かっ!!」
吐き出す息が白い。
忌々し気に吐き出された言葉に、人知れず口角が上がったのが分かった。
「Siete pronti?(覚悟はいいか?)」
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