第6話

懐かしい夢を見た。


レオさんが俺を、あの場所から助け出してくれた日の夢を。


寝起き特有の微睡みに浸りながら目を開けば、あの鳥籠には程遠い清潔感のある白い天井が見えた。


視線を動かせば、ベットを囲むように引かれたカーテンの隙間から、病室なのか俺が今使っているのと同じベットが数個と消毒のツンとした匂いが鼻孔をくすぐる。


軋む体を動かし、上半身を起き上がらせれば、体の大半に白い包帯が巻かれていて少々動かしづらい。


しばらくの間動かせる範囲で体の調子を探っていると、別のベットとこちらを隔てていたカーテンが勢いよく開かれた。


「お、起きていたのか」


「……皇さん、でしたっけ」


「俺のことは雪叶と呼んでくれ。体の方は大丈夫か?」


日の光を束ねたかのような淡い金髪に夕焼けのような茜色の瞳。


幼いがどこか聞き覚えのある声が耳朶を揺らすが、彼はレオさん…レオポルド・ネーロではなく、皇雪叶という別人だ。


ただ似ているだけの、別人なのだ。


「大丈夫です」


俺は、上手く笑えているだろうか。


「敬語もいらないぞ?どちらかと言うと私の方が貴方に敬語を使わなかればいけませんし」


「俺の敬語コレは癖のようなものなので気にしないでください。普段の話し方で構いませんよ」


「む、ならこのまま話すとしよう」


どこか照れたように有頂を戻した彼は、自身が俺よりも3つ年下なのだと語った。


彼は椅子を持ってくると俺のすぐ横に座り、身振り手振りを交えながら


俺がここに運ばれた経緯と、その後の事を話して聞かせてくれた。


俺のこの傷は見た目ほど酷くはなく、今日中に退院できること。


家は両親を攫った奴らが、もしも俺が今こうして行きていると知られれば命を狙いに来る可能性があるため、帰れないこと。


発現した異能力の暴走を抑えるため、監視と異能力を封じるための首・輪・が付けられること。


「俺はこの首輪が嫌いだ。これではまるで国の奴隷となっているようではないか」


確かに、首輪は異能力を封じるが、それと同時に未だ謎の多い力の解明のため、国からの要請があれば応じなければならない。


国のためなどと言いながら、その裏で行われるのは後ろ暗いものであるというのは有名な話だ。


それに、力の解明のため異能力者が必要だという点では、今の俺は国にとっても都合のいい存在だろう。


両親は何者かに攫われ義務教育も終了間近、帰る家もなく保護されなければ明日も行きられない。


母方や父方の親戚にも、迷惑はかけられないしな。


「拒否すれば犯罪者扱いですからね」


「……よし、出掛けるぞ!」


「はい?」


「今は首輪も監視もない。ならばどこに行こうが何をしようが自由だ」


善は急げと言わんばかりに、俺の服やスマホなどの貴重品_家に来ていた警官達が持ってきてくれたらしい_をベット脇に隣接したタンスから取り出してくれた。


その様子を手渡された服を持ちながら呆然と見つめていれば、その視線に気づいた彼はどうしたのかと首を傾げた。


「いえ、何でもありません。どこに行くんですか?」


「そうだなぁ〜、俺のおすすめのカフェがあるんだが、甘いものは大丈夫か?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


「なら、決まりだな!」


彼が出してくれた服に着替えながらそう答えれば、背を向けているため彼の顔は見えないが楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。


監視や首輪がつくまでの限られた時間ではあるが、少しでも長く彼と痛いと思ってしまったのだ。


あの戦場で最後に見たレオさんは苦しげで、涙を流さずに泣いていたから。


だからせめて、レオさんに似た彼には笑っていてほしいんだ。


「いくぞ!誰にも見付からないようにここから脱出するのだ!」


「ふふっ、ミッション開始ですね」


繋がれた手は、あの時よりも小さいが、とても暖かかった。

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