新入生研修会レポート(仮)③「星川先輩が生徒会に誘う」 鴫野亜実

 食事は思ったよりも良かった。和洋中入り雑じった豪華なメニューでボリュームもあった。この研修費が学費に組み込まれているとしたら、とあたしは考えて、両親の顔が浮かんだ。

「君たちの中に生徒会に興味がある人はいないかい?」星川ほしかわ先輩が突如口を開いた。みんな食べる手を止めた。

「そういうのやったことないです」と言う中、鴇田ときたが「僕は興味あります」と言った。

「やる気まではないですが」鴇田は正直すぎる。

「そうかい、やる気はないのか。でも興味はある?」

 実はあたしも同じ考えだった。但馬たじま先輩に言われてキャラ作りのためできるだけたくさんの人を観察するようにしている。この星川先輩に東矢とうやさんがいる生徒会だ。いったいどんな活動をしているのだろう。そしてまた星川先輩と東矢さんの間で繰り広げられる会話がどんなものか見てみたいと思った。

「そうだねえ、今日この場に生徒会から来ているのはボクと東矢さんだけだから、生徒会に興味があるのなら一度生徒会室まで来てみると良いよ。ボクならいつでもウェルカムだよ」

 その喋り方、キャラで作っているんですか?とあたしは訊きたかったが、もちろん訊けるはずもなかった。あたしたちと星川先輩はたった今同じテーブルについて夕食を共にし始めたばかりなのだ。

「じゃあ来週にでも早速」鴇田はさっさと話を進めていた。「誰か一緒に行くかい?」

 鴇田はみんなを見た。班のみんなはどうしようか迷っているようだったが、あたしは「行きます」と手を挙げた。

 同じ班のみんなが、やっぱり、という顔をした。竹中は「トキシギペア!」と冷やかすように叫んだ。

「何だい、それは……トキシギペア? ウィキペディアのアナグラムでもない」どうしてそんな発想になる?

「この二人、鴇田と鴫野しぎののペアです。鳥のペアですよ」

「そうか、入学して日も浅いのにもうペアになっているのか。やるじゃないか」星川先輩は楽しそうに笑った。

「違いますよ!」あたしの方が先に叫んでいた。少々無理があったかもしれない。

「文芸部の仲間なのでよく一緒にいますが、付き合っているわけではありませんよ」鴇田が冷静に訂正した。

「そんなのこれからどうなるかなんて神のみぞ知るさ」

「どうにもなりません」あたしは断言した。

「みんなダメだよ、生徒会役員の人がいるところで、二人の話をしては」竹中がたしなめるように言った。

 そのわざとらしさにあたしはいらっとした。

「恋の前では校則なんて意味はないさ」

 星川先輩が言い、まわりの女子たち、あたしたちの班以外の者も聞き耳をたてていたのだ、がクスクス笑っている。もうどうしようもなかった。

 だからあたしは半ばやけくそで星川先輩に訊いた。

「生徒会の中では恋が芽生えたりしないのですか? 美男美女のたまり場みたいに見えますが」

「たまり場、とはよく言ってくれたよ、ガール」だからそれやめてって。「でも、そうだねえ、ボクは君たちと同じく高等部からの入学組で、この学校に入って一年過ぎたばかりだからよく知らないが、昔は生徒会の中でもいろいろあったみたいだよ。詳しいことは東矢さんにでも訊いてみたら良いよ」

「え、それって、東矢副会長が……?」

「そういう意味じゃないだろ、さすがに」

「生徒会役員を長くしている人に訊きなさい、ってことですよね?」

「それは、ボクの口からは何とも」星川先輩は思わせぶりな言い方をした。「そういうのは自分で調べてみるのが楽しいんじゃないか」

「そ、そうですね」

 何だ、この人は?と思っていたあたしたちのテーブルにいつの間にか近寄っている人がいた。

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