新入生研修会レポート(仮)②「星川先輩登場」 鴫野亜実

 新入生研修会の続きだ。

 午後の競技ディベートが終わり、夕食の時刻となった。研修施設のホールに二百名収容できる食事会場が設けられていた。

 あたしたち一年生は百五十名、それに引率していた教職員が十名、そこに金曜日の授業を終えた二年生ボランティアが三十名ほど駆けつけてきた。

 班で動く際に二年生が一名つくのだと、あたしたちは説明を受けた。食事は班ごとにかたまってとるが、二年生が一人一緒になる。しかも毎回顔ぶれが変わるというから楽しみにする一年生は多かった。

 あたしは、香月かづき先輩がいれば少しは心ときめいただろうが、あいにく香月先輩の姿はなかった。香月先輩がボランティアでこんな山奥の森の中に来るとは思えなかったが。

 そして夕食、あたしたちの班についてくれたのが星川ほしかわ先輩だった。いきなりの有名人の登場にあたしたちは喜怒哀楽のどれを表に出して良いのか混乱した。

「いやあ、研修お疲れさま、ボクは二年H組、通称星組ほしぐみの星川です。よろしく」

 目を細めてにこっと笑うと白い歯がキラリと光った、気がした。

 あたしたちの班だけでなく隣の班の面々まで呆気にとられた。

「ほ、星組っていうのですか?」

 こういう時、鴇田ときたの遠慮の無さは役に立つ。はじめに星川先輩の相手ができたのは鴇田だった。

「H組ってさ、『変組』とか『変人組』とか呼ばれることがあるんだよ。だからボクの字をとって『星組』にしたんだ。似合うだろ?」星川先輩は笑みを絶やさなかった。「そういえば君たちもH組だったね、星組と名乗りたければボクは許可するよ」

「遠慮します」あたしたちは歌劇団ではない。

「そうだね、賢明な判断だ。今年の一年は聡明だね」ってバカにしてるでしょ、この人。

 しかし星川先輩が無視できない存在なのは班の誰もが知っていた。彼は生徒会役員でこれまで何度もその姿を見ている。役員がずらりと並んだ時も美人の生徒会長より星川先輩の方が目立っていたくらいだ。

 しかも一年生の時の学年総合成績が二位、直近の三学期試験では一位だった。その掲示は、いやらしいことに、今も本校舎一階に貼り出されている。

 星川先輩は、誰もが知っている有名人なのだ。

「H組に変人が多いというのは本当なのですか?」今度は口の軽い竹中たけなかが訊いた。

 鴇田が突破口になったお蔭で他の者も星川先輩に話しかけるのが楽になっていた。

「H組に変人が多いのではないよ、男性教師が担任をしているクラスに手がかかる生徒を多く入れているんだよ」みんなエッと思ったのだろう、顔を見合わせた。「君たちのクラスの担任は?」

御子神みこがみ先生です」

「それはハッピーだね」

 どうして? ご愁傷様の間違いではないの? 文芸部というだけでやたらと絡んでくるのですが。

「おそらく君たちのクラスは文化祭で演劇をすることになるだろう。御子神先生のお蔭で素晴らしい舞台が出来上がるよ」

「そうなんですか?」

「年に三度ある演劇部の舞台を見たまえ」……たまえ、なんて言う人に初めて会ったよ。

 食事前の挨拶が始まった。今回の研修会会長の中峰なかみね先生が挨拶し、その後二年生ボランティアを代表して生徒会副会長の東矢とうやさんがひとこと挨拶をした。

 次期生徒会長とみられる東矢さんは現生徒会長とはタイプは異なるがとても美人だ。漆黒のストレートヘアを下ろした白い顔にあたしは雪女を連想した。

 生徒会長は代々美人が就くという噂は本当かもしれない。再度中峰先生がマイクを持ち食事をいただく挨拶の後、いつもの「アーメン」で締めて夕食となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る