図書室にて 鴫野亜実
図書室で、あたしは
先輩方の書いたものをもとに同じ設定で自己流にアレンジした小説もどきを書くという課題だ。
舞台は四月の学内食堂。登場人物は女一人、男四人の計五人だった。それさえいじらなければ好きなように書いて良いらしい。その、好きなように、が難しいのに。
それでも鴇田は何だか適当に書いているようだった。
部室からノートパソコンを二台借りてきている。
図書室の閲覧エリアは放課後でそれなりに混んでいた。あたしたち二人は贅沢にも六人掛けのテーブルを一つ占拠していた。そこに
部室と保健室以外で槇村さんに会うのは珍しい。あたしはとても気分が良かった。
課題をこなせない、とあたしが言うと、槇村さんは、あたしが書いたものを見てみたいと言った。
本当におだてるのがうまい。あたしはのせられた。
あたしは鴇田の存在を消し去り、槇村さんと二人きりになったつもりで槇村さんとのひとときを楽しんでいた。
そこへあの人がやって来たのだ。
その人は、音量ゲージを消音にしたかのように動きに音がなかった。
気配を消しているつもりはないであろうと、あたしは思う。それがその人の存在の仕方なのだ。しかし外見が目を見張るような美形なので人目は集める。
その人が図書室に入ってきた瞬間、その場の空気が一瞬騒然とした。ただ、その人を認識していながら誰もが知らぬ振りをしていたのだ。ただ一人槇村さんを除いて。
「あら、
それで彼が
香月先輩は二年生らしい。二年生に美形男子が何人かいると聞かされていたが、その一人を目の前にしてあたしは慄然とした。
さらに香月先輩はあたしの隣に腰掛けたのだ。
あたしは執筆中のあたしの駄作を見られないかと気が気でなかった。
香月先輩と槇村さんは知り合いらしい。学年が違うのにいやに仲が良さそうだった。といっても槇村さんが一方的に香月先輩に話しかけ、香月先輩は無表情に返事をしているようにも見えたが。
すると今度は鴇田が香月先輩と話を始めた。
香月先輩と槇村さんが文芸部の活動報告を見るために端末機へ移動した時に鴇田に聞いてみると、図書委員での知り合いのようだ。
あたしは一瞬だが鴇田が羨ましくなった。
槇村さんは以前から香月先輩を文芸部に勧誘しているらしい。香月先輩が入部すれば部員も増える、という回りくどい言い方をしていたが、単純に香月先輩が文芸部にいてくれることを希望しているのだとあたしは睨んだ。
槇村さんの目が何となく女の目になっているような気がして、あたしは複雑だった。しかし、それがきっかけで、それまで全く接点のなかった香月先輩と話をするようになったのだ。
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