文芸部部室にて但馬はモノマネとパクリの話をする②
「さて、小説を含む文学の世界でもモノマネは盛んに行われている。特に世界観とかキャラ設定とかストーリー展開などもよく似たものが多すぎてパターン化されているくらいだ。ラノベを読んでいて、あれ、これ、どこかで読んだことがあるぞ、と思ったことはいくらでもあるだろう。中にはパクリじゃね、と思う作品に出会うこともある。しかし実際問題、全く新しいストーリーを生み出すのはほとんど不可能と考えて良い。どんなに新鮮なストーリーでも既存のストーリーの模倣に過ぎない。パターン化してみると必ず何らかのパターンの一つになっている。その組み合わせと見せ方で勝負するしかないのだ。とは言うものの、似ていてもパクリだと感じないこともある。いったい、そこにどんな違いがあるのだろう?」
「何でしょう?」と鴇田。
「わからん」と但馬。
「は?」と鴫野。
一瞬、間が空いた。
「おそらく、そこには読者にパクリだと感じさせない何かがあるのだ。ストーリーにのめり込み、共感したがためにパクリを忘れてしまっているのだと俺、いやボクは考えるね」
今、言い直したよね、と鴫野は思った。
「今度はテレビドラマを考えてみよう」モノマネは終わりなのか?「刑事物とか時代劇を観たりするか?」
「僕はテレビ、観ないんで」
「あたしもテレビ観ません」
終わったな、という雰囲気の間があった。しかし但馬は構わず続けた。
「まあ、知っての通り……」知らないですけど「……刑事物も時代劇もワンパターンだ。一言で言うなら、事件が起きて主人公たちが解決する」
「そんなザックリまとめたらラブコメも異世界ものも同じですよね?」鴇田が口を挟んだ。
「その同じパターンが安心感を与える。観ている者は、それが必ず解決されるとわかっていて観ている。どのように、どんな風に解決されるのか。ハウダニット」何か呪文が出たよ。
「だから解決されなかったとしたら気持ちが悪い。納得できない。また、解決法が気に入らないとやっぱり文句を言いたくなる。そこには共感が重要なのだ」
「なるほど、なるほど」
「視聴者や読者の共感はどうしたら得られるか?」
「それが問題だ」鴇田がおどけた。実はこいつ、茶化している?
但馬は続けた。
「本を読んで面白かったら、その後どうしたい? 時を忘れて一気に読み終えてしまった後、どう思う? 至福の時が終わってしまったんだぜ」
「もっと読んでいたいと思うかもしれませんね」鴇田は答えた。
あ、こいつ実は、読み終えたらすぐ寝るタイプだな、と鴫野は思った。
「続編が無いか探しますね。無かったら同じ作者の作品を探してみますね」
「そうなんだよ、ラノベならば二巻が無いかと探すよな。同じ作者の作品が無いかと探すよな。そして読書を続ける。しかし何事も有限だ。あっという間に読み尽くしてしまうだろう。すると次はどうするか?」
「同じジャンルの作品を探します」
「似たものを探すわけだ。そしてそれを見つけたら読んでしまう。たとえパクリだったとしても」
「まあ、そうですね」
「しかし似ていてもパクリだと思わないことがある。パクリだと思ってしまうものとの差は何なのか?」
「パクリだと思った。それは多分、がっかりしたからでしょう」鴇田は答えた。
珍しく鴫野は鴇田と同じ意見だった。
「よく似た劣化品だったからだな。そもそもパクリとは、似たものを後出ししただけではないんだな。オリジナルよりも質が悪いからパクリと非難されるんだ。オリジナルを凌駕する、もしくは同等の出来ならパクリだとそしられることはない。視聴者や読者は、これはきっとオリジナルにインスパイアされてオマージュとして作ったのだろう、と思ってくれる」
「そ、そんなものですか?」
「知らんけど」
「知らんのかい」鴫野は思わずつっこんでしまった。
但馬は嬉しそうだ。
「だから質の良いパクリをすれば良い。何事も真似から始めるものだ。キャラクターもストーリー展開も、文体も真似することから始まる。『学ぶ』という言葉は『まねぶ』まねをする、から来た言葉だと言われる。真似は悪いことではないんだ。ということで、これからの課題は真似だ」
「パクリってことですよね?」鴇田が問いかけ、しらけた空気が流れた。
「それは出来次第だな……」但馬はそっぽを向いた。
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