『四月某日 文芸部部室にて』⑥ (二人称編) 但馬一輝
本谷のフォローでどうにか二人の新入生の心をつなぎとめることができたと思ったお前は、調子にのってその後もいくつか余計なうんちくを傾けた。しかし聴衆の反応は鈍い。本谷の視線も冷たくなっていた。
本谷もだんだん槇村に似てきたな。というか、この学園の女子は清楚な雰囲気を纏っているが、中身はたくましい。そして男に対して厳しい目を持っている、と、お前は自分のいたらなさを棚にあげて状況を分析してみる。
それが的外れだとお前はいつも気づかない。
しかし、本谷に任せることもひとつの手だとお前は思った。本谷が喋るのに任せ、自分は少し身を引いて発言を我慢するのだ、と、お前はできもしないことを自分に言い聞かせた。
幸いなことに本谷が週に三回は顔を出すと言い、お前はほっとする。本谷は部活こそ文芸部専任だったが二年H組の学級委員になったために忙しい身で、それを聞いたお前は本谷に感謝する。その感謝の意が本谷に伝わったかどうか、そこまでお前は知る能力をもたなかった。
やがて本谷が帰ると言い出した。
それを聞いた二人の新入生も下校する意思を見せた。
おそらくは、後輩たちを帰すために本谷は帰ると言ったのだ、とお前はわかっている。
荷物をまとめて、本谷と鴇田、鴫野が帰るのをお前は見送った。
あとに残されたお前は、自分の書いた駄作の手直しに、ああでもない、こうでもないと言いながら、何度も書いては消し、書いては消して、時間を消費したのだった。
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