なんで私/僕が文芸部に 御堂藤学園文芸部活動記
『おしとやかな文化系少女として高校デビューしたかったあたしは、可憐な先輩女子に惹かれて文芸部に仮入部した。しかしそこに先輩女子の姿はなく、無礼無骨な男子ふたり。これって詐欺じゃない!?』② 鴫野亜実
『おしとやかな文化系少女として高校デビューしたかったあたしは、可憐な先輩女子に惹かれて文芸部に仮入部した。しかしそこに先輩女子の姿はなく、無礼無骨な男子ふたり。これって詐欺じゃない!?』② 鴫野亜実
中学時代、バレー部をやめて、あたしはそれまで仲が良かった友だちと疎遠になった。バレー部の子は練習で忙しかったし、教室では日常会話くらいはしたものの共通の話題がなくなっていくに連れて一緒にいるのも気まずくなっていった。
もともとあたしは愛想が良いように見られない。いつも不機嫌に見えるらしく、進んで喋る方でもなかったから、用がないと話しかけられることもないのだ。
だからあたしは三年生になっていよいよ受験という時期になると勉強に打ち込んだし、教室での休憩時間には本を読むようになった。もっとも、あたしみたいな人間には学校が推薦するような本は敷居が高く、もっぱらラノベやミステリーを好んで読んでいた。
三年生の一年間受験勉強にいそしんだあたしは、校則の厳しい、良家の子女が多く通うと言われる御堂藤学園高等部に入学した。そこで今までとは別の姿のあたしとして高校デビューを果たす。それが一つの目標だった。
そしてそれは現時点では成功している。おしとやかで、黙っていれば、あたしは賢そうに見えるのだ。さすがに体育の授業ともなるとつい体は動いて口も出してしまうが、それくらいはご愛嬌というものだ。
そんなあたしは入学式の翌日の授業開始初日にひとりの先輩に声をかけられてしまった。これも一つの運命なのかもしれない。そう思ったあたしは誘われた通りに文芸部の部室を訪れた。
槇村さんはいた。ストレートの髪を下ろした槇村さんはとても美しかった。彼女の背中に窓から差す穏やかな光が当たって、まるで後光のようだった。同性ながらあたしは槇村さんにすっかり魅了されていたのだ。
あたしは、槇村さんの話が半分くらいしか頭に入ってこず、ただ彼女にみとれて、あたしも文芸部にいたら槇村さんのようになれるだろうか、と思い描いたりした。そこへあいつが現れたのだ。
槇村さんとの二人きりの時間が長くは続かなかった。そいつが同じクラスの
しかし彼は少し、いや普通に落ち着きがなかった。
授業中に後ろからため息やら独り言が聞こえてくる。開いていた教科書が、押さえが悪くて閉じてしまうらしく、何度もパラパラ教科書をめくる音がするかと思えば、消しゴムやシャーペンを床に落とすのを繰り返し、その度にあたしは他人に注意できなくなってしまった自分にイラっとした。
だからそんな鴇田が文芸部の部室にいたのが信じられなかった。
こいつ、本が好きなのか? そういえば図書委員に立候補していたっけ。こんなやつでも本を読むのか。まだ三日目だが、本を読んでいるところを見たことがない。
信じられないが鴇田は本好きなのだろう、とあたしは不本意だが割りきることにした。
鴇田は、槇村さんがあたしに部活動のあらましを説明する間ずっと槇村さんの美貌に見とれていた。
それであたしはわかった。こいつは槇村さん目当てでこの文芸部に入部したのだ。何という不届きな奴。とはいえあたし自身も槇村さんに惹かれたわけだから文句も言えない。だからあたしはこの現実を受け入れるしかなかった。
まさかもっと受け入れなくてはならない現実があるとは、この時のあたしは思いもしなかった。
ポーズ
「ん、何だろう?」但馬が首を傾げた。
「「わからないんですか!?」」
鴫野と鴇田が声を揃えた。
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