『僕が文芸部にいるワケ』⑤ 鴇田量也

「早速だが、君たち二人にはこれから短編小説を書いてもらう」

「え?」

 僕と鴫野しぎのは思わず顔を見合わせた。

 鴫野の方はすぐに不機嫌な顔を見せまいと、そっぽを向いたが、僕は改めて但馬たじま先輩に体を向けて訊いた。

「その、小説なんて書いたことないのですが。というより書けません。書かないといけないのでしょうか? 文芸部は読書を楽しんで、面白い本があったら教え合う部活だと槇村さんにうかがいましたが違うのでしょうか?」

 違うのならクーリングオフするぞ、と言っているかのように、いやむしろそう脅しているかのように僕は厳しく言ったつもりだった。

 しかし但馬先輩はいささかも動じなかった。

「ならば書けないということを万人に理解できるようロジックを組み立てた小説もどきでも構わない。仮にも文芸部に身をおいた以上文筆でこたえるのが御堂藤学園生の誇りというものだ」

 は? 何じゃそれ、とは思ったが僕の口からスムーズに返しの言葉が出ることはなかった。

「小説が書けないことを論理的に書く、なんてこともできそうにありません」僕は正直に言った。

 鴫野が黙って頷き、僕に同意した。というよりも鴫野は僕に但馬先輩の扱いを押しつけるつもりなのだと僕は解釈した。

「小説の方が書きやすいと思うぞ。創作なのだから」

 但馬先輩はニヤリと笑い、僕たちにいくつかポイントをレクチャーした後、文芸部に仮入部することになったいきさつを一人称の小説形式で書いてみるよう促した。

 僕たちは何故そんなことを安易に引き受けてしまったのか。但馬先輩の強面こわもてに恐怖を覚えたのか。なぜかもわからないまま僕たちは課題に取り組むことを決めていた。そして昨日と今日の二日間書き続けて、これが完成したというわけだ。

 これで但馬先輩は納得するだろうか。

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