『僕が文芸部にいるワケ』③ 鴇田量也

 僕と槇村まきむら先輩は暫しの間見つめ合った。これは反則だ。もう観念するしかない。僕はこの文芸部を人生の憩いの場にすることに決めた。とはいえ、槇村先輩との距離がそれ以上縮まることはなかった。少なくともその日は。その日僕は槇村先輩から部活動の概要について説明を受け、仮入部届けに署名したのだった。

 ちなみに御堂藤学園の部活動は二週間の仮入部を経て正式に入部となる。二週間はクーリングオフ期間のようなものだった。しかしその時の僕はただのクーリングオフにするつもりはなかった。槇村先輩に手をとられて「一緒に読書をしましょう」と言われ断れる男がいるとは思えない。部室に僕と槇村先輩の二人しかいないことも、不審というより好機ととらえてしまっていたのだ。だから早速次の日もウキウキ気分で僕は文芸部部室を訪れたのだった。

 部室にはすでに槇村先輩がいて、もう一人女子生徒がいた。どこかで見たことがある顔だと思っていたら、同じクラスの鴫野亜実しぎのつぐみだった。どうやら鴫野しぎのも槇村先輩に勧誘されて文芸部に来たようだ。

 鴫野が文芸部に入る気になったのは少し意外だった。活発な体育会系の女子という印象があったからだ。制服も槇村先輩とは違う。

 槇村先輩は入学式の時と同じフォーマルスタイルだった。膝丈セーラー服、藤色のリボン、黒タイツにローファー。髪だけが昨日と違い肩へと下ろしていた。そのさらさらのストレートヘアがまた魅力的だった。

 一方鴫野は、すでにスカート丈が五センチほど短くなっていた。リボンの色が濃いピンク色になっていて、タイツではなく紺のソックスで黒っぽいスニーカーを履いていた。髪が少し茶色く見えるのは目の錯覚か。

 校則でフォーマルスタイルを強いられるのは公式行事の日だけなので多少のアレンジは問題ない。とはいえ入学二日目で通いなれた上級生たちと同じようなスタイルになっていることが驚きだった。

「あら、鴇田君、いらっしゃい」槇村先輩はにこりと笑い、目を細めた。「新入部員の鴫野さんよ」

「知ってます、同じクラスなので」

「まあそれは奇遇ね。運命的出会いというものかしら」

 いやいや僕は槇村先輩との出会いに運命を感じているのですが、とは思ったものの口にできるはずもなかった。


ポーズ


「しっかりと書いてるじゃない。何が口にできない、よ」鴫野の声がまたしても部室内に響いた。

「落ち着きたまえ、最後まで読んでから批評をすることにしよう」但馬が鴫野をたしなめた。

 鴫野は少し頬を膨らませ、口をつぐんだ。

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