常春のパズル

 長年一緒にいた猫が、虹の橋を渡った。私が小学生の時に拾った手のひらで鳴いていた子猫は、腕の中で静かに息を引き取った時には8キロを越えた大柄な猫となっていた。

 身体も大きかったが、存在感も大きかった。帰ってきてももう、そこにはあの猫はいない。ぽっかりと、家の中にも心の中にも穴が出来ていた。私を形造るパズルは猫型のピースがひとつ、はずれたままだ。

 そこに吹き込む風は、季節変わらずに冷たく刺さるようなものだった。

 ……過去形の話だ。


「にゃあ」


 ただいま、とドアを開けるとそこにはふわふわの毛玉が玄関のマットの前に座っている。随分小さい猫型のピースが、毛皮の色を変えて私のパズルの空いたそこにはめ込まれたのはつい最近のことだ。

 まだ、風は吹き込んでくる。しかしその風はもう、冷たくもなく、刺さりもしない。常春の匂いを運んでくるのだ。

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