進軍

「ねぇ気が向いたらでいいけど今度この前の駅から帰ろ。駅まで一緒に歩こ。笑」

「全然良いけど流石に歩くだけになるけど良い?」

「良いよ、歩く!」

「それならいいよ。笑」

「やったー!楽しみにしておく!」

「私はなんも無いからいいけどそっちは大丈夫なの?」

「一緒帰りたくて遅くなっても大丈夫な伏線張っておいたから大丈夫!」

「いや用意周到すぎるだろ。」

「プロでしょ?最低だよね。笑」

「最低とは思わないけど心配にはなるかな。笑」

「確かに、俺も心配になってきた。笑」

「その温度感は君たちしかわからんからなぁ。」

「多分ね、全然平気そう。笑」

「正直結構怖い。笑 でもまぁ、私の方も上手にやるわ。」

「気を使わせてごめんね・・・。助かります・・・。」

「こちらこそ。構ってもらえて嬉しみの極み。」

「お互い様ならなお助かる!ちなみに新人入ってきたから飯連れてくって言ってある!」

「凄。プロじゃん。」




朝からそんなやり取りをしながら、いつもと変わらず日常はやってくる。


朝から書類を捌いて業務に追われながらあっという間に1日が過ぎていく。


飛び込みの急な依頼も多く、週中独特の疲労感に襲われている所、そろそろ定時だという時にさらに来客対応を依頼された。




人が来るなら!

前もって!

言っておいて!

偉いからって許さないですよ!

そこの細長い常務!




とは口が裂けても言えないが。

内心とてもイライラしながら応接室までお客様を案内してお湯が沸くのを待っていた。




「急な来客対応やめてほしい。」

「まじか。お疲れ様!俺も疲れた!もう帰る!」

「そっちもお疲れ~。私もお茶出し終わったら速攻帰る。」

「間違って常務に掛けないようにね!」

「細心の注意を払うわ。」

「その意気!」




さっきまでのイライラも忘れ、ふふっと笑みが零れる。




「ねぇ、今朝のさ、新人との飯今日だと流石にやばい??」

「全然ヤバくない!なんなら今日かもって伝えてある。笑」

「え?エスパーなの?笑」

「凄いっしょ。だからいいなら一緒に帰ろーよ!」

「帰る!でも人多すぎでむずい説。だからどっか行かない?」


勢いで送信してしまった。

流石に引かれてしまうだろうか・・・。


「いいよ!そうしようぜい!飯って言ってるからいける!どこにする?」


心配とは裏腹に軽快なお返事が届いて安心から口元が緩む。


「それ。どうしようね。笑」

「どっかあります??またカラオケ?笑」

「あり。個室だしね。笑」

「この前行った所のもうちょい奥にもう1件あるっぽいよ。」

「マジで!?そっちでもおっけ!!安いしそっちにする?」

「そうしよっか!決まり!」

「そうしよう!!現地集合でオッケ?」

「もち!急いで片付けと準備するから出るとき連絡入れる!」

「了解―!」






「エレベーター。」

「俺は今マップ見てるけど迷ってるとこ!」

「大通りをコンビニ側に渡るんだよ!笑」

「なるほど!とりあえずコンビニ側に信じて進むわ!」

「そうして!ご飯どうする?お腹すいてる?」

「ありがと!お腹絶妙な感じ!そっちは空いてる?」

「私も微妙な感じ・・・。カラオケ入ってから考えよっか。笑」

「確かに、カラオケでも食えるしね!笑」


「着いた!!」

「待って!今ちょうど交差点!」

「着けた!!」

「いやホントそれはよかった。あ、見えたよ。」




最近見慣れた姿を視界で捉える。

今日も会えた。そんな気持ちになる。

実際ほぼ毎日、職場の同僚として会ってはいるのだ。

それとは違うのだ。






「いつもいつも付き合ってくれてありがとね!!

楽しかったー!

相変わらず時間があっという間でした。笑

また遊んでね〜、絶対!笑」

「今日はありがとうねー!

帰り道気をつけてねー!

私も楽しかったよー!!

本当時間経つの早いよね。笑

遊ぼ。構って。笑」




距離が近くなった。

そんな気がした。




「いえいえ!こちらこそ!そっちも気をつけてね!夜遅いし!早かったー、時間経つのマジで早い。笑 遊ぼ遊ぼ!!ゴールデンウィーク初っ端すでに楽しみ。笑」

「ありがとうー!お腹すいた!マジで早いよね。あっという間すぎる〜〜〜。私も楽しみ!!!いや、ちょっとそれは・・・とか言われなくて良かったよ。笑」




そうなのだ。

勢い余ってゴールデンウィークに会う約束を取り付けてしまった。

大変喜ばしい事だ。

大変喜ばしいのだが本当にこれで大丈夫なのか、と、どこか奥底に居る冷静な自分が語りかける。

そんな自分自身を一瞥して、今は余韻に浸ろうと思った。

自分自身含め、本心なんてのは今は考え無い方がいいのである。




「実は俺もお腹空きすぎてる。

ヤバくね、時間のスピード世界的に変化が起こってるかも。笑

ね!!平日でも構わんからとっとと来てとっとと終われって思ってる。笑

そんなん言うわけないでしょ!笑」

「お腹鳴りそう。笑

帰るの嫌なくらいには楽しかったよ。笑

早すぎて困ってる・・・。

ちょっと間空いちゃうけど、タイミングあったらまた場面で・・・。笑

分かんないじゃん!

私もネガティブなんですよ。」

「こんなお腹空いてたんだね。

同じく!笑

だいぶ帰りたくなかった・・・。

確かに!チャンスがあればじゃんじゃん誘う!

ネガティヴ同士ってわけか。笑

自分に自信なさすぎだー、自信持って平気だぞ!」

「本当。なんか買って帰るわ。

楽しい時間はあっという間だからなぁ。

ネイティブ出ちゃってる。笑

私は自信あるところと無いところの差が激しい自覚はある。笑

ありがとね!でもそれ自分もだからね。

自信持って平気だよ!」

「俺は若干眠気が勝ってるから絶食を選択した。

無理しない程度に誘いに乗ってくれたら嬉しい!

そうだったのね。笑

お互い程々に自信待と。

ありがとね!!」




似てるんだろうなぁとうっすら思う。

育った環境も生きてきた環境も違うけど、どこかが似てるんだろうなぁ、と。




「最寄り着いた!!

この時間に何食べたら正解なのか分かんないよね。笑

乗っちゃう・・・構ってくれるの嬉しくてすぐ乗っちゃう・・・!笑

程々にね!反面教師いっぱい居るから!笑

こちらこそ!ありがとう!」

「お帰りー!俺も家着いた!!

たぶんメガポテ的なやつ。笑

乗ってくれるのはマジで嬉しい!

日々タイミングを見計らっておく。笑

そうそう過剰は危ないよ、っていい例があるからね。」




家に着いてソファーに腰掛けてふぅ、と息を吐く。

ふわっと左側から彼の匂いを感じた。






「ただいま!お帰りー!

あのさ、服から君の匂いするから私の匂いも付いてるかも。

とりあえずタイミング合うまでは喫煙所合流で気持ち誤魔化そ。笑

いい例があってよかった。笑」

「確かになんかいい匂いした!笑

そだね!周り全て無視して喫煙所で合流しよ。笑

近くにたくさんいるから助かるわー。

生徒の数超えてるのよ、反面教師の数が。笑」

「着てた服抱えて寝ることにするわ。笑

君の服は即洗濯機ぶち込んどいた方がいい。笑

そうしよ!全スルーで!!

本当過剰な先生多すぎて困っちゃいますねぇ!」

「何それ可愛いかよ!

俺は十分堪能してから洗濯機入れとくわ!←自分で打ってキモさに驚愕した・・・。笑

毎日昼休憩で階段駆け上がるわ!笑

その場では笑える先生と笑えない先生いるけど後で話す時にはみんな笑えるから結果的にはネタとしては宝庫。」




今私にやにやしてた。

とてもにやにやしていた・・・。

ハッとして我にかえるが、また画面を眺め、にやにやする。




「可愛くないだろ!どうかしてるぞ!

なんなら抱えて寝る私の方がキモいだろ。笑

距離感バグってたら言って。

後でネタとして共有しよ!

ネタにする事で笑える話にしよ!」

「いやいや抱えて寝るは可愛いだろ。笑

堪能は字面からしてキモい。

なんかキモい自慢大会になってしまった。

同じく!お互い指摘しあお。笑

それそれ!

ネタにすること考えたら楽になるからね!」

「あざとさ出してみた。笑

十分堪能してくれ。笑

確かに。同点てことで!

周りを置いてけぼりにしよ。笑

そうそう!!

これ話せる〜〜〜!ってなる。」




人間は手の届きそうなところにあるもの程欲しくなる。

彼がもう私ではない誰かと生きている事は分かっている。

それでも心地よいこの関係がずっと続けばいいと思ってしまう自分が居る。


彼も同じ気持ちなら、そうだと嬉しいな、と思いながら布団に入る。




「今日ももうこんな時間だ。

最近遅いしそろそろ寝る努力をしますかね!」

「確かに。

布団に入って目閉じる事にする!」

「そうしよ!

おやすみ、また明日ね!」

「また明日!」




久々におやすみを言えた気がする。

2人の時間を思い出しながら思い出に浸っていると、瞼が重くなってきた。




日常は繰り返される。

その中で、少なからず自分の事を分かってくれようとしている彼と一緒に居たいと思ってしまう。

まだまだ関係は始まったばかり。

これから2人がどうなるか。

そんな事は誰にも分からない。

今日この日の楽しかった記憶を思い出しながら意識を手放した。

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