彼誰時のひととき

「まじ昼飯ミスった。完全なる体調不良。

もう少しで終業なのにこの時間まで引きずってる。」

「俺もミスった。

変にスタミナつけようと豚丼みたいの食ったら実質死亡。」

「それは完全に終わったわ・・・。

私海鮮丼だったのに死んでる」

「終わってる・・・。

海鮮丼で死んだらもうなんでも死ぬ説あるわ。」

「マンボウくらい死にやすいじゃん。」

「マンボウ理論で行くなら数で勝負か・・・。

俺らが死んでも誰か生きる・・・。」

「次の誰かに託す・・・。」

「意思を受け継ごう・・・。」




睡眠時間の足りない私と彼は飽きもせずダラダラとやり取りを続けていた。

お互い昼飯のチョイスをミスったらしい。

睡眠不足で胃が弱っているのだろうか。

歳は取りたくないものである。




「私はお先に帰るわ。残業がんばー。」

「結果俺も帰りました。さすがに仕事にならんかった。」

「お疲れ様!まじで今日はしんどかった!!

元気な時にヒトカラ行くわ。」

「マジでしんどかったね。

でもさ不思議なことに家着いたらわりとケロッとしてる。俺もそうしよー!」

「分かる。割と元気になっちゃったけど今日は爆速で寝よう・・・。」

「だよね!マジで会社のあの眠さは何だったの?」

「どんだけ仕事嫌なんだろう。

まだ1週間始まったばっかりだからな・・・。」

「ほんとそれ。もはや木曜の疲労感。」

「曜日勘違いしそう。」

「だよねー。明日とか行きたくねー。」

「行きたく無いのは明日所じゃない件。」

「確かにー。なんなら辞めたいまである。」

「本当にそれ。」

「ってかさーマジでカラオケ行かん?」

「え、行く。すぐ行こ。」

「やったぜ!行こう!まじですぐ行きたい。」

「明日?」




自分で言っておいてふふっ、と息が漏れる。

私も大概である。

彼とのやり取りに楽しさを覚えて始めている。




「ありよりのあり!」




ありなんかーい。といつのまにか声が出る。





「ストレス発散に行っとく?」

「行っとこうか。

私は全然平気だけどそっちは大丈夫なの?」

「行こうぜい!予定あるって朝から言っとく!定時上がりの日に振り替えますって。」

「じゃあそれでお願いしますわ。」




続け様にもう1通送る。





「2人がいいっしょ?誰か誘う?」





少しばかり送信ボタンを押すのに緊張してしまった。





「それの作戦で行きます!2人でいいっしょ!逆に誰か誘っても不快になる可能性すらある。」




内心、とても安堵した。

2人が良かったのだ。

誰も誘われなくてよかった、と思った。




「さては君も相当疲れてんな?」

「確かに。だからこんなに行きたいってのもあるかも!」


あっけらかんとした返事が届く。



「了解了解ー!空けとく!」

「やったー!よろしくーねー!」

「たーのーしーみー!!




それだけ送って私は意識を手放した。






「見事に寝落ちた。」

「俺も寝落ちた。」

「今日どうする?私のが終わるの早そうな気がする。」

「18時何分に会社出る目標?マジで死ぬ気で合わせるわ。

あとどこのカラオケ行くかもだね。」

「それそれ。どこのカラオケ行くか決めて集合そこにしようか!」

「それがいいね!大通りのカラオケがさ、加熱式タバコ吸える部屋あったきがしてる!」

「それは激アツでは。でも会社の近くだとやばい?」

「別に平気じゃない?近くでも火曜日だし誰にも会わないでしょ!」

「じゃあ大通りのカラオケにしよ。

予約30分単位みたいだけど、18:30?19:00?」

「18時半!目標としてもそこで帰ろう!」

「18時半了解。予約しとく。」

「ありがとうー!また後で!」




数時間後の約束を取り付ける。

柄にもなくワクワクしている。




「なんかさっき忙しそうだったけど大丈夫そ?」

「問題なし!!私は今日はもう仕事しない!!」

「おっけ!俺ももう終わり!場所ってここで合ってる?」


マナーモードのスマホの画面に地図が表示される。


「あってる!現地集合でおっけ?」

「おっけ!後ほど!」




そそくさと身支度を整えてエレベーターに乗り込む。




いつもの駅への帰り道とは違う道が新鮮で、今日これからのことにとても期待している自分が居る。

会社の人間が居ないか、若干周りに目を配らせながら、足早に目的地へと歩く。




「俺も無事会社出て向かってるー!」




彼も順調なようだ。





「もう着いてるよー。」

「お!俺ももうすぐ!あと50メートル!どこいる?」

「お店の目の前にいるー!」






「おっけ!見えたー!」






瞬間、顔をあげる。

視線の先に君の満面の笑みを見つける。


心臓が大きく跳ねた。


君が控えめに振った手に、つられるように振り返す。






その笑顔が狡いんだ。




君の隣まであと5メートル。
















「たどり着けたー?」

「着いたよー!ありがと!」

「よかった。こちらこそありがとー!

私も電車乗った!」

「いえいえ!また行こうねー!気をつけて帰ってね!

俺の乗り口まで付き合わせてごめんね!」

「楽しかった・・・!また行こう!

それは全然大丈夫!君が方向音痴なのは意外だった。」

「いや分かんなくない?駅あんなに広いと。」

「分かんなくはないかなぁ。。」

「嘘ぉ?」




時刻はPM11:30


当初は2時間程度の予定だった。

気が付くと、あっという間に2時間が終わり、自動延長へと変わっていたのを確認して、開き直って居れるまで居てやろう、と結局この時間になってしまった。

ほぼほぼ終電の人が疎らな座席に座り、ふぅ、と息を一つ吐いた。


「俺5時間経ったのが未だに信じられてない。殆ど歌ってないし!」

「いや本当よね。歌ったの最初の1時間だけだもんね。

よく会話だけであんな長時間持ったわ。」

「解散するまで喋りっぱなしだもんね。」

「それ。駅まで結構あったのにさ!」

「遠回りさせてごめんよ。。

俺喋り足りなかったみたい。」

「かまわんよ!実際めっちゃ楽しかったし!話してたら着くのもめっちゃ早かった!」

「確かに!1キロ近くってこんなもんなん?」

「いや?多分だけどやっぱり喋りすぎて時間感じなかったやつな。」

「マジで一瞬だったもん。

しかも5時間話した帰りにあんだけ話すのは若干病気。

延長からが怒涛に過ぎたわ。」

「お互い色々溜まってたんだねぇ。」

「確かに。俺も誘うけど溜まりすぎる前に声かけてね。」




またそうやって甘やかす。

人の温かさを忘れたアラサーには甘い甘い毒になる。




「まじ今度はフリータイム探そ?

今日は延長やりすぎです。

メインカラオケじゃなくなってるし!」

「探そう、ガチで。本当にカラオケが付属だったね、今回は。」

「楽しかったんだけどね!カラオケもリベンジで!殆ど愚痴でごめんね!」

「実際俺もかなり楽しかったよ!そうだね!もっと曲も覚えとく!わりと凄いよね。会社でも喋るけどあんな続くとは思わんかった~。いや全然いいよ、おもろかったし!むしろ俺もくだらん事永遠聞かせてごめん!」

「リベンジしたい曲がめっちゃある。

同世代楽しい・・・!

お互い様ということでよろしい??

まじで笑いすぎて腹筋疲れてる。

笑いすぎて痩せちゃう。」

「俺もリベンジ頑張るわ!

なんなら想像をゆうに超えて上手かったから練習もしとく!

逆によろしいですか?

そうさせて頂いて?

腹筋疲れるのはいいけど痩せるのだけはやめときな!!」

「やったね!

ええ、ええ、かまいませんとも。

痩せるの止めるられるのマジで本当に笑うんだけど。」

「本当にダメよ、今ベストオブだから!

するならキープ!」

「めちゃくちゃヨイショしてくれるじゃん。助かっちゃう。」

「とりあえず体調不良みたいな痩せ方は特にNGね!」




こんなに心配されることが嬉しいと思う日が来るなんて。

ニヤける口元をマスクで隠す。

マスクがあって本当に良かった。




「とりあえず無事最寄りにつきました!」

「おー!よかった!俺は家着いた!」

「おかえり!!」

「ただいま!!」




こんな些細なやり取りですら気持ちが躍る。




「でも、まじでうちの先輩の話わかってくれて嬉しいわ。」

「良かった!少しは元気出たか?

逆に俺もそれ分かって良かったわ、楽になった。」

「元気でた!味方居る気になる。」

「良かったー!俺もそう思った。

いやみんなが騙され過ぎてて、俺が異常なんかなとすら思っててさ、マジで誰にも共有できなかったのよ・・・。」

「君は人当たり良すぎて全然そんな感じなのわかんなかったわ。いつでも共有して!」

「今日改めて思いましたわ。

それはそっちも同じよ。

溜め込み過ぎないように!

共有するし共有もして!」

「ありがとー!少数派なんだなぁ、と感じた。

私も演技派なので・・・!

すぐ言うわ。そしてなんでも聞くよー!」

「演技派の少数派として頑張ろ!

すぐ言って!いつでも聞くわ!俺もすぐ言う!」

「やったね!!月一定例はよろしく。

んで今日もこの時間なのやばいー!」

「任せといて!定例は欠かさないから!

ヤバいよ・・・いつの間になるのさこんな時間に。

今週寝不足祭り開催中?」

「時間経つのはっや。

勤務中はあんなに遅いのに。

やな祭りだな・・・。

ただ昨日と違って明日は体調不良は無いと思う。」

「加速してるまであるな?勤務中はヤベェ遅いよね。

ごめん、恐らく俺祭りの主催だわ・・・。

でも一個改善されたね。

あとは俺を放置して寝れば完璧!」

「なんであんな仕事中は遅いの??困った。

でも明日は定時デーだから・・・!

ダブル主催です・・・。

メンタル回復したからね!

そんな殺生なことはしません!

ちなみに眠いですか??」




私は眠くないのである。

不健康にも程がある。




「遅いよね〜。

なんなら永遠って時あるもんな。

ヤバっ!最強ですやん!無敵の日!

主催が2人いたらそら開催頻度上がりますわな。

マジでそれは良かったわ。

眠くは無いのよ、怖い・・・。眠いすか?」




彼も同じようで。

安心している自分がいる。




「眠くないから困ってる。。

明日また使い物にならなくなりそうで、そろそろ寝たいのに眠くない・・・。」




これは本心。




「何で眠く無いのかね。

俺先週くらいまでは12時とかに寝てたのよ、急な夜型。」

「突然すぎん??

私は割といつも遅めではあるけども。」

「なんなら寝ようとしたら寝れんまであるかも。

寝るのってムズイね・・・。

突然の夜行性覚醒。」

「そうなのね、でも流石に結構な遅めよね最近。

それは大いにあるわ。

寝ようとしすぎて寝れんやつ。今と一緒。

寝るのむずい・・・。

流石に遅い。肌ぼろぼろだもんね。」

「ダウト!今と一緒って言ったけど寝ようとしてるのか!果たして!

流石に寝ないとではあるのよ。

このままのペースだと来週肌ズルムケよ。」

「流石にね。一皮剥けます。

日曜?月曜?と一緒くらいの時間だからね。

一旦寝る努力しますかね。」

「もはやゆで卵みたいになる。

そうしますか!流石にこのままだと余裕で朝。」

「ゆで卵なら本望・・・。

余裕で朝迎えるね。

朝迎えたら終わるんだけどね・・・。

じゃ、頑張って寝ましょうか。

おやすみ!」

「明日は生きよう!頑張って寝よう!おやすみ〜!」




ホーム画面へ戻り、ふぅ、と大きく息を吐く。

時刻はAM3:30

2日前と同じような時間帯だ。

こんな短期間でこんな時間まで夜更かしするとは思っていなかったが、先程彼にも伝えた通り目はとても冴えてしまっている。


もう一度大きく深呼吸して、目を閉じる。


今日は本当に楽しかった。

とても健全なカラオケだった。

長いはずの帰り道すら楽しかった。

2人で歩くと1kmはあんなにも短いのか。

わくわくする心地よい疲労感に包まれながら夜へと意識を手放そうとする。

明らかに睡眠時間の少ない体はいとも簡単に闇へ飲まれる。

あんなに冴えていた目も数分で微睡んでくる。




「楽しかった」

それ以上でも以下でもないと自分に言い聞かせて、長かった今日を終える。


終わらせる事の出来ない、彼とのやり取りを思い出しながら。


明日はどんな一日になるだろうか。

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