翌朝。

 孤児院の子どもたちと神父、ユーノとカルロ、そして――カナタ。

 彼らに見送られ、旅人は、朝焼けに包まれていくミドナを後にした。

 大きな棺を背負って歩いていく旅人の背中が、すっかり森の中へ消えてしまってから、カナタは鐘楼の塔へ向かった。


 生前、メリーがお気に入りだった場所。

 よく、二人で訪れては景色を眺め、歌を歌い、笑って過ごした場所。

 その最上部にある鐘撞の間で、カナタは、遠く水平線を眺めながら、万感の想いを込めて鐘を鳴らした。

 丸みを帯びた音色が、高く、明けの空に響いていく。




 この世界に、永劫の別れなどない。

 空の青と、海のあを

 別々の場所にあるはずのその二つが、やがて世界の果てで交わるのと同じことだ。

 一度は離れ離れになったとしても、いつかまた、出逢える日が来るだろう。

 『俺』は、それを信じている。


 だから『俺』は、何度でも鐘を鳴らす。

 旅立ちの時は近い。

 それでも、この街に帰ってくる命がある限り、また高らかにこの鐘を鳴らそう。


「愛している」


 その言葉と共に、いつでも、何度でも――――




 二羽のカモメが、じゃれ合いながら飛んでいく。

 何処までも続いていくような蒼の果てへ向かう彼らも、『俺』たちのように、いつかは別れることになるのかもしれない。


 けれど、彼らおれたちは哀しくなどない。




 ――絶対に、また逢える。




 白鳥おれはもう、それを知っていた。






【Ⅱ.白亜の港町・ミドナ編――了】

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