「二人、まだ出てこないねー?」

「お店に入ってから、もう結構経つよねー?」


 洋服店ブティックの向かいにある建物の陰から、そっと店の様子を覗き見ながら言う、ユーノとカルロ。

 そんな二人の背後で、旅人はため息をついた。

 せっかくメリーとカナタが二人きりでいい雰囲気になっているというのだから、そっとしておいてやればいいものを。

 結局、出歯亀するという二人を止めきれずについてきてしまった自分も自分だが。

 そう思い、旅人がひっそりと苦笑した時だった。


『あ、誰か出てきた!』


 ドアが開いたのを見て、双子が揃って声を上げる。

 ゆっくりとそちらを見れば、開いたドアからは、まず、私服姿のカナタが姿を現した。

 そして、その後ろから、カナタに手を引かれて出てきたのは――


「……メリー?」


 白いリボンを結んだカンカン帽に、編み上げの茶色い革サンダル。

 ふわふわと風に舞う白いレースのワンピースを着た、メリーだった。


「おや……随分とまた、可愛らしいじゃないか」


 旅人は、目を凝らして少女を見つめると、柔らかく微笑んだ。


「大人っぽーい……すごいね、ユーノ君」

「だよね、カルロ君……すっごく、綺麗」


 双子たちもまた、すっかりメリーに見とれているのだろう。どこか夢見心地な様子で、うんうんと頷き合っていた。


「しかもあれって、よくメリーが欲しそうに見てたワンピースじゃない? カルロ君」

「そういえば、そうだね。カナタさん、あれ買ってあげたんだ!」

「メリー、嬉しいだろうね」


 そう言い合う双子に、旅人は訊ねる。


「彼女は、あのワンピースを欲しがっていたのかい?」


 旅人の問いに、双子は揃って『そうだよ!』と頷いた。


「メリーも年頃の女の子でしょ? だからやっぱり、ああいうおしゃれな服が欲しかったみたいなんだよね」

「でも、孤児院ってそんなにお金があるわけじゃないからね。神父様――ええと、孤児院の院長先生なんだけど。その人に我儘も言えないし、メリー、ずっと我慢してたんだ」

「本人は何でもないふりしてたけど、俺たち、ずっと一緒にいるからさ。分かってたんだ。メリーがあの服をずっと欲しがってたこと」


 交互に答えるユーノとカルロ。

 その話に頷きながら、旅人は、遠ざかっていく二人の背中をそっと見遣った。


 軍服を脱ぎ去り、私服姿になったカナタ。

 そして、その隣を、憧れていたというワンピース姿で歩くメリー。


 寄り添い合って歩き、時折顔を見合わせて笑い合う二人は、まるで――




「いい恋人同士じゃないか」


「え?」

「何? どうしたの、旅人さん?」


 よく聞こえなかったよ、と不思議そうにする双子。

 くすりと笑って彼らの頭を軽く撫でると、旅人は話を切り替えるように「さて」と呟いた。


「二人とも、もう満足したかい? そろそろ尾行はやめて、観光案内を――」

「あー! 二人が行っちゃう!」


「大丈夫だよユーノ君! あっちに行ったってことは、二人は多分、喫茶店カフェに行くはず!」

「そっか! さすがカルロ君、冴えてる! そうと決まれば、早く行こう!」

「おー!」


 旅人の言葉を全く聞き入れることなく、ユーノとカルロは建物の陰から飛び出して走り出す。


「……やれやれ、仕方ないな」


 こうなったら、二人がうっかりメリーとカナタの前に飛び出していかないように、最後まで責任を持って面倒を見るべきか。

 仕方ないな、と溜め息をついて、棺を軽く揺すって担ぎ直す。

 旅人は、微かに口元に笑みを浮かべると、双子のあとを追いかけた。



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