第76話
「で?どれを選ぶんだ?」
サニーのその言葉に改めて選択死を見る。
『A.シルビア頑張れと叫ぶ』
『B.一緒に壇上に上がる』
『C.シルビアに罵声を浴びせる』
「Cは無しね」
「まぁ、だろうな」
この呪いとも5年の付き合いだ。
そろそろ慣れてきて、選ぶ時間も短くなってきている。
「どっちも嫌だけど、Aかな。Bは意味わかんないし」
そう言って迷わず私はAを押した。
すると、また自分の意志では体を動かせないあの感覚になる。
「シルビアァァァ!頑張れぇぇぇ!」
私は思いっきりお腹から声を出した。
(え、ちょ、ちょっと!こんなに大声なんて、聞いてないわよ!)
私が心の中で突っ込みを入れると、サニーの笑い声が頭に響く。
(…くっ、はははは!なんだこれ!シルビア応援団かよ!)
(ちょっと!笑いごとじゃないわよ!死にはしなさそうだけど…社会的に恥ずかしすぎるって!)
頭の中でそう会話をしていると、見知らぬ生徒がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
(ん?何かしら、この子)
(なーんか、俺嫌な予感がしてきたんだけど)
サニーのその言葉通り、目の前の生徒はブツブツと何かを呟きながらゆっくり歩き
私の目の前で足を止めた。
(え、な、何…?)
すると、手に光る何かを持っているのが見える。
(うわ…ナイフよ、あれ…)
私が絶望してそう言うと、サニーは先程まで茶化していた事が気まずいのか黙っていた。
「あなた、何なのよ…。
シルビア様の邪魔ばかり…隣にずっといて…本当、目障り…何であんたなのよ!!!」
そう言って手に持っているナイフを私に突き立てた。
(あぁぁぁぁぁ!痛い、痛い痛い!!)
何度死んでもこの痛みには慣れない。
もう、早く死んでくれ。
痛みがある間はそう願うようになる程、『死』に慣れつつあった。
「痛い痛い痛…!あ、戻ったのね…」
痛みを誤魔化す為に叫びまくっていたらいつの間にか死んでしまったらしく、また選択死に戻ってきた。
「ルージュ…ごめんな…」
「良いのよ…自分でもちょっと面白かったもの…」
「うん。悪いけどまだ思い出すだけで笑いそうだわ…」
「それは我慢してちょうだい」
選択死を見るとAの横にドクロマークが付いている。
それを確認しながら、私はすぐ下のBを押した。
すると今度は何も言わずに立ち上がる。
(一緒に壇上に上がるって…どういうことなのかしらね)
(…お、動き出したぞ!)
私は無言のままシルビアの後をついて行く。
(え、何も言わないの怖いんだけど)
(というか俺としてはさっきの刺してきた奴の方が気になるけどな)
サニーはそう言うが、私は特に気にならなかった。
と言うのも今までの呪いで分かったことだが、全く知らない他人が急に現れて私を殺しにくる事は少なくないのだ。
それに、他の選択肢を選んだ時…
その殺人者は、何事もなかったように生活している。
こちらが気にするだけ無駄なのだ。
(ま、どうせシルビアのファンか何かでしょうね。呪いが絡んでこない限り殺される事は無いでしょうし、大丈夫よ!)
(本当ルージュは楽観的だなぁ…)
サニーの呆れた声が聞こえた頃、シルビアが私の存在に気付き振り返った。
「…?ルージュ?どうしたの?」
あくまでヒソヒソと話してくれるが、こんな大勢の前で急に立ち上がって後をついて行ってるのだ。
明らかに周りの目も疑問に満ちて、ザワザワと話し声も聞こえる。
「シルビア、頑張ってね」
「?え、ええ。頑張るわ!」
「…」
「え、それだけ!?」
シルビアのヒソヒソ声に合わせてか、私もヒソヒソとシルビアにそう言った。
(…何なのよ、もう)
私は呆れたように溜息をつく。
サニーは笑いを堪えているのか、時々声が漏れている。
「あ、ありがとうルージュ。頑張るわね!」
「うん」
あくまでヒソヒソ声でそう会話をし、私は自分の席へと戻った。
(これってシルビアが振り返らなかったらどうするつもりだったのかしらね、私…)
(さ、さぁな…ククッ)
サニーはもう普通に笑っている。
そして自分の席についた所で、私は動けるようになった。
「はぁぁぁっ。恥ずかしい。皆私のこと見てる?」
ヒソヒソとサニーに確認をすると私の肩から少しだけ顔を覗かせた。
「ん〜。正直に言うのと誤魔化すの、どっちが良い?」
「それってもう皆見てるって言ってるようなもんじゃない!」
急に立ち上がってシルビアに一言声をかけただけだけど、こんなに静まりかえってる会場でこれは…
今後の学園生活、大丈夫だろうか。
そう不安になってしまうスタートなのだった。
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