第75話
「教室に行く前に皆に会えて良かったわ!」
私がそう言うと、皆も嬉しそうに笑顔を向けてくれる。
「俺の専攻は剣術だけど、通常授業では一緒だからな。頑張ろうぜ!ルージュ!」
そう言ってニッと笑うイッシュ。
その笑顔を私はじっと見る。
それに困惑したイッシュが不思議そうにしている。
「な、なんだよ?」
「イッシュ、やっぱりカッコ良くなったなぁって…」
「「「!!?」」」
私がそう言うと、他の皆が一斉にこちらを見る。
そんなに変な事を言っただろうか。
私としては流石、攻略対象だと思っただけなんだけど。
「おい、ルージュ」
耳元でサニーの声がした。
「ん?」
「面倒な事になる前に他の奴らも褒めるか、そうじゃなければこの場からもう逃げようぜ」
「え?」
サニーの言っている意味が分からずにいると、オーウェンの顔がずいっと近付いた。
「ルージュ?今のはどういう意味なのかな?」
「え?オ、オーウェン?どうしたの?」
「イッシュがカッコ良くなったって」
「?そのままの意味だけど…」
「それって…!」
「お兄様もオーウェンもそうだけど、成長して更にカッコ良くなったなぁって…」
私がそう言うと、オーウェンは少しだけ満足げだ。
「私も?」
「え?ええ。オーウェンもお兄様も…何かいけなかった?」
何に怒られているのか分からずに聞き返すも、オーウェンはもう怒っていないようだった。
「何でもないよ。ルージュは素直だから、すぐに人を褒められるんだよね。それはすごく良い事だと私は思うよ」
「?なんで急にご機嫌なの?」
私の問いかけには答えず、オーウェンはお兄様の隣へと戻っていった。
イッシュを見ると、呆れたように溜息をついている。
だが、その後ニヤリと笑った。
「じゃ、そろそろ入学式だろうし教室に行こう!
俺はルージュと学年が一緒だからクラスも一緒だし、これから毎日一緒に授業を受けれるなんて…カリーナ先生の授業を思い出すな?」
イッシュはそう言って私に笑顔を向けた。
「そうね!先生の授業を受け終わってから1年が経つし…イッシュと一緒に授業を受けるのも久しぶりで、私もすごく楽しみ!」
カリーナ先生の授業はどうしても基礎的な事になる為、私とイッシュは1年前に授業が終わってしまっていたのだ。
私が笑顔でイッシュに答えるのを見て、シルビアが私とイッシュの腕を引いた。
「もう!ルージュ!火に油を注がないで!
イッシュ様も、いちいち対抗しないで行きますわよ!」
「ふっ。そうだな。ちょっとガキだったか…じゃ、またな!先輩方」
挑発するかのようなその言い方に疑問を持ちつつも、シルビアについていく。
ふと後ろを振り返るとオーウェンが悔しそうにしていた。
(あ、そうか!)
私は思いつく。
オーウェンは学年が違う事で、私とイッシュと一緒に授業を受けれない事が寂しいのだ。
私とイッシュがカリーナ先生の授業を受けている時も寂しそうだったし…
意外と可愛いところがあるのよね。
そう思いクスクスと笑うと、耳元でサニーの声がした。
「何考えてるか大体予想できるけど…多分それ違うと思うぞ」
***
入学式の会場につくと、個別で席が用意されていた。
私とシルビアは隣同士、イッシュは少し離れた所だ。
各部門の先生方の紹介や、授業内容についての大まかな説明などを終えて次は入学生の代表挨拶となった。
「入学生代表挨拶。代表は前へ」
その言葉を聞いて、私の隣の子が立ち上がる。
そう、代表はシルビアなのだ。
元々貴族教育もきちんと受けている子だったけど、私と出会ってからもシルビアは学ぶ事を辞めなかった。
それに、あの魔獣の一件以来、魔法の腕も磨いていたようだ。
魔獣の事に関してはシルビアには詳しく話せていないが、それでも異常を感じ取っていたのだろう。
「頑張って、シルビア」
もう壇上にあがるシルビアには聞こえるはずもないが、思わずそう呟いた。
シルビアは緊張した様子で、息を吸い込む。
私もシルビアが言葉を発するのをドキドキしながら待つ。
待っていたのだが…
シルビアが言葉を発するのはまだ先のようだ。
「このタイミングかぁ…」
「んま、そろそろかなって気はしてたけどな」
目の前に浮かび上がる文字を見ながら項垂れるも、サニーは慣れた様子で文字の周りを飛んでいる。
「よし!まぁ何とかなるでしょ!」
この3年で私達は数々の選択死を選んできた。
何度も死んで何度もやり直して…
心が折れそうになったこともあったけど、サニーと仮契約をしたことで何を選んでも一応丁寧な対応になる。
そのおかげで昔ほど絶望を感じる事は無かった。
最初は嫌な態度を取ってしまう、まさに『悪役令嬢』って感じだったが
今はどちらかと言うと『急に変な行動をする変わった子』って感じだ。
どっちが良いのかは分からないが、他人を傷つけるよりはマシだと思う。
…というより、思う事にしている。
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