第74話

強くなりたいと願ったあの日から、私とイッシュも戦闘の訓練をするようになった。


そして、あれからまた3年の月日が流れた――


「ルージュ!準備できた?」

「シルビア!うん。準備完了よ!」


私達はついに15歳。

そう、ウッドスティック学園へ入学する歳になったのだ。

今日はその入学初日、私とシルビアは一緒に学園へ向かう約束をしていた。


「わざわざ私の家まで来てもらってゴメンね?朝早くから大変だったでしょう?」

実はシルビアからの『入学式当日は私の馬車で迎えに行くわ』という提案に甘えてしまったのだ。


「いいのいいの。だって多分、ルージュ1人で行かせたら…」

「うん?」

「…まぁ、行ってみたらわかる事ね」


何かを言いかけた後、そう濁すシルビアに疑問を持ちつつ私達は学園へ向かう事にした。


***


そして学園へ到着する。

正門の方に人だかりが出来ていた為、少し離れた場所で降ろしてもらった。


「何かしら?あの人だかり…」

私がそう疑問を口にすると、シルビアは苦笑いを浮かべる。


「恐らく、ルージュも無関係では無いと思うけどね…」

「え?」


「「きゃあああ!イッシュ様よ!」」

シルビアに聞き返そうとしたところで、人混みから令嬢達の声が上がる。


「え、な、何!?」

びっくりして私がそう言うと、シルビアが私の腕を掴んだ。

「さ、私達は早く行きましょう!」


シルビアに手を引かれながら人混みを見てみると、どうやらイッシュが学園に到着したようで馬車に人だかりが出来ていた。

明らかに困っているイッシュが目に入ったが、なるほど確かに。

これは助けるよりも逃げた方が良いわね。


そう1人で納得していると、人混みからまた声が上がる。

「イッシュ様!ルージュ様とはご一緒ではありませんの!?」

「先程から待っているのに、ホルダー家の馬車がまだ来ないんです!」

「それよりイッシュ様!やはり学園では剣術をメインに学ばれるおつもりで!?」


私を待っている…?

まさかの発言にきょとんとしていると、私の手を引くシルビアが溜息をついた。


「だから言ったでしょ。ルージュは同年代の子達から人気があるんだから、ホルダー家の馬車で登校なんてしてたら朝から相当疲れてたわよ」

「ええ!?」


一体何がどうしてこうなったのか。

悪役令嬢であったはずの私が、まさかこんなに人気者になるなんて。

自分で『人気者』と言うのも恥ずかしいけれど…


「ほら!教室に行く前に皆様と待ち合わせしている場所まで行きましょう!…と言っても、あの調子じゃイッシュ様は合流できるかどうか微妙だけどね」


偽物の笑顔を張り付けながら困っているイッシュを見て、私は密かに同情するのだった。


***


「あら!イッシュ様、来られたのね!」


暫くして、待ち合わせていた学園の裏庭にイッシュがやってきた。


「お前ら~」

明らかに疲れきっているイッシュを見て、私は笑ってしまう。


「笑いごとじゃねぇぞ、ルージュ!シルビアも、何で助けてくれなかったんだよ!?」

「あら!イッシュ様も笑顔でしたし、喜んでおられるのかと思いましたわ~!」


あの時のイッシュの笑顔が本物ではない事も分かっているはずのシルビアが、悪戯っぽくそう答えた。


「ルー!みんな!初日から楽しそうだね?」

聞き覚えのある声に私達3人は反応する。

お兄様と、隣にはオーウェンもいる。


「お兄様!!」

私は思わずお兄様に抱き着いた。


「あははっ!ルーはこの歳になっても甘えん坊だね!」

そう言って笑うお兄様。


学園では完全寮生活が義務付けられている。

お兄様も例外ではなく、昨年から寮生活だったのだ。

勿論休みの日は家に帰ってきていたけど、それでも一緒に暮らしていた頃を考えると全然会えていない気分だった。

そんな状況もあって、恥ずかしさよりも嬉しさの方が勝ってしまったのだから仕方ない。


「ふふ。相変わらず、仲良しですわね。…アレン様、オーウェン様、お久しぶりでございます」

シルビアがそう言ってお辞儀をする。


お兄様ともオーウェンとも仲良くなったシルビアだけど、学園に入ってからは疎遠になっていた。


「うん。久しぶり、シルビア」

そう言ってお兄様が微笑む。

その笑顔を嬉しそうに見ているシルビア。


おや?おやおや…?

これってもしかして…?


私がそう思っていると、耳元で小さく声がした。

「シルビアはアレンが好きなのかな?」

「うん、私も今そう思っていた所よ」


思わずそう返事をしてしまうと、皆が不思議そうに私を見る。


「ルージュ?どうしたんだい?」

オーウェンに言われ、ハッとする私。


「あ、いや…あの、サニーがね…ハハハ」

私がそう言うと、耳元で小さく溜息が聞こえたあと

「ピィ!」

と声がして、私の肩から小鳥の姿のサニーが飛び出した。

みんなにもサニーを紹介していたので、特に驚きは無い。

まぁ、だけどね。


「あぁ、サニーか!一緒に学園に来れて良かったね」

オーウェンがそう微笑む。


そう、サニーはこの世界でも珍しい魔力持ちの動物として認識され学園に連れてきても良いという事になったのだ。

学園にサニーを連れていくのにどうするか迷っていた時、お兄様が学園側に交渉してくれた。


そして、入学試験の面接のときにサニーを先生方にお披露目し、珍しさとサニーの大人しさから連れ歩いても良いという事になった。


「本当、自分でもよく連れて来れたと思うわ…」

私がそう言うと、イッシュがサニーのほっぺを指先でグリグリと撫でまわす。


「お前よかったな~!ちゃんとルージュに感謝するんだぞ~?」

その言葉にカチンときたのか、撫でまわされているのが鬱陶しかったのか

サニーは「ピィィ!!」と泣いて、イッシュの指をつつくのだった。

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