第71話

そうやって耐えている間も、目の前で魔獣がシールドを殴り続ける。

ガンガンとシールドを殴られる度に、体の内側から殴られているような感覚になった。


「ぐっ…!」

苦しい、なんて言ってられない。

それでも私の限界は近付いていた。


「2人とも…ごめん。

シールドが…壊れ、たら…

すぐにこの場から…離れて」


声を絞り出し、そう2人に伝える。

2人も私の様子を見て限界という事が分かったのだろうか。

返事は無かった。

後ろを振り返る事も出来ずに、私はイッシュとシルビアの様子を伺う事も出来ない。


そしてついに、今までで一番の痛みが体に走った。


「ぐ…ううっ!!」

「ルージュ!」


サニーの叫ぶ声が聞こえる。


「大丈夫。きっと来てくれるわ…きっと」

そう自分に言い聞かせるように呟くが、くじけそうになる。


私は自分を奮い立たせる為にも、大声を出した。


「助けて!!

お兄様ぁぁ!!お父様ぁぁ!!!」


そう叫んだ瞬間、背後からナイフが飛んで来て魔獣に刺さった。

あのナイフは…いつの日か、見た事があるナイフだ。


「すまない、ルージュ!イッシュ君、シルビア嬢もよく耐えた!!」

「ルー!?大丈夫か!?」


「2人とも、まずは魔獣を!

ルージュ、すまないが頑張れそうならシールドを張ったままで!

苦しくなったらシールドを解いてすぐにこの場を離れるんだ!」


ナイフの後から続々と、お父様、お兄様、オーウェンが現れた。

私はオーウェンの指示に返事をし、シールドを張り続ける。


すると、後ろからイッシュとシルビアの声が聞こえた。


「「ルージュ!!」」


そして私の手を2人でギュっと握ってくれる。


「ルージュ!さっきは返事が出来なくてごめん!」

「私も、どうしたらいいか考え込んでいたの!」

「「でも!!」」


2人の声が重なる。


「ルージュがこのシールドを解けば、俺がお前を抱えて一緒に逃げる!」

「そうよ、私も一緒に抱えるわ!ルージュよりは疲れていないもの!」

「2人とも…」


だから、もうシールドを解いて良いんだと言ってくれている事は分かった。

でも…


「ありがとう。イッシュ、シルビア。

でも、まだ大丈夫よ…みんなが戦ってくれてるんだもの。

私だってギリギリまで頑張りたいの!」


「でも、ルージュ!お前もう限界だろ!?」

「…分かったわ!ルージュの気持ちを尊重する!」

「なっ!?」

意外にも、シルビアが大きく頷いた。


「でも、もしあと少しでも無理だと思ったらすぐに解いて!

私達は大丈夫だから!絶対逃げるから!」


「あぁ、もう!分かった!

俺が絶対お前を傷つけさせないから!

だから、ヤバかったらすぐに言え!!」


「…ありがとう、シルビア。イッシュ」


あんなに疲れていたのに、ニコリと笑顔を作る余裕は出てきた。

2人を守らなきゃ。

そう思うと、弱音を吐いてなんかいられない。


シールドを張りながら、目の前で行われている戦いに目をやる。


オーウェンは剣を使って戦っている。

お兄様は、投げナイフに魔力を乗せて戦っているようだ。

魔力の力で投げたナイフが戻ってきている所を見ると、どちらかというとブーメランのような戦い方に見える。


お父様は…単純に魔力のごり押しね。

強い魔法をぶつけている。


でも…私たちが見ても3人が押しているのが分かる。

魔獣も攻撃をしているが、それをひょいひょいと避ける3人。

どうしてこうも、戦いに慣れているのだろう?


そんな事を考えていると、ドサリと大きな音がした。

見ると、3人の足元に魔獣が倒れている。


緊張しきった状況に誰も口を出せなかったが、暫くして死んだことをきちんと確認したらしい3人がこちらに駆け寄ってきた。


「大丈夫か!?

3人とも、よく耐えたな。

ルージュ、シールドを解きなさい。

もう大丈夫だから」


お父様のその言葉に私はホッとしてシールドを解く。

そして解いた瞬間、心配そうに私の名前を叫ぶ皆の姿を見ながら、私の意識は途絶えたのだった。


***


次に目を覚ました時、周りにみんながいた。

涙を流しながらシルビアが私に抱き着く。

どれぐらい寝ていたか聞くと、意外にも2時間ほどだったらしい。


「魔獣は…?」

「きちんと倒せたよ、安心して」


そうニコリと笑うお兄様を見て、心からホッとした。


「ふふふ」

「どうしたの?」

「ううん。思い出しちゃって」


私はシールドを張っている時に飛んできたナイフを思い出していた。


「後ろからナイフが飛んできた時ね、ビックリしたんだけど…

でも、お兄様のナイフだって気付いたら本当に安心したの」


そう言うと、お兄様は戸惑うような表情を見せた。


「僕、ルージュにあのナイフを見せた事あったっけ?」

その言葉に私は、しまったと思ってしまった。


あれは、初めて選択死の呪いが出た時。

お兄様の部屋に向かった時に、お兄様が投げて私に刺さった…

私が初めて死んだ時のナイフだったのだ。

見たのはあの選択をした時だけだった事を思い出す。


「あ、ああ!

前にお兄様の部屋に入った時に目にしたの!

勝手に見ちゃってごめんなさい…」


「…なるほど、そっか。

大丈夫だよ!僕は気にしてないから!」


「ありがとう、お兄様」

そう言って私は笑顔を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る