第69話

「このタイミングで出たのかぁ…」


私がそう言うと、肩からひゅるりとサニーが飛び出した。


「いや、むしろこのタイミングで良かったんじゃないか?

あの時に出てたら、お前の心はもっとボロボロになってただろう」


きっとサニーが言っているのは、つい最近…

私がウルティの事で落ち込んで1カ月近くも引きこもっていた事を言っているのだろう。


「う…確かに。

よし!もうここはちゃちゃっと終わらせちゃいましょう!」


そう言って目の前の文字を見る。


『A.鬼ごっこが良いと提案する』

『B.かくれんぼが良いと提案する』

『C.遊ぶのは疲れるので、お喋りを提案する』


「う~ん…久しぶりにみんな集まったし、遊びたいわよね」

そう呟くが、戸惑ってしまう。


「なら、AかBを選べばいいんじゃないか?」

「そうなんだけど…

鬼ごっことかかくれんぼって、ちょっと幼稚過ぎない?」


私がそう言うと、サニーは不思議そうな顔をした。


「そうなのか?人間の子供はみんなその遊びをしてるんだろ?」

「まぁ、そうだけど…」


でも、私達はもう12歳だし、お兄様とオーウェンは13歳だ。

何と言うか…


「子供だけど、もう大人の歳っていうか…

かくれんぼとかするにはちょっと大人すぎるというか…」


私がそうモゴモゴと言うと、サニーは本当に理解できないような顔をした。


「なんだそりゃ?

人間のルールなのか?面倒だな、人間って」


「ルールでは無いけど…」


そう言ってまた選択死を見つめる。

お喋りするだけでも良いような気はするけど…

でも、せっかくみんな集まったんだ。


私は意を決して、Bを押した。



すると、私の視界は色づいて勝手に口が動き出す。


「かくれんぼ、なんてどうかしら?」


その私の言葉に、一斉にみんなが口を開いた。


「「「「かくれんぼ?」」」」


(うわ見てよみんなの顔。何でこの歳でかくれんぼ?って顔してるわ)

(そうなのか?何だか嫌そうな顔してるし、ただかくれんぼが嫌いなだけじゃないのか?)

(どっちにしろ嫌がってるじゃない!)


そんな事をサニーと心の中で言いあう。

すると、オーウェンが頷いて提案してきた。


「いいね!じゃあ…みんなもう魔法は使えるし。

魔法を使っていいってルールにしないかい?」

「へぇ、楽しそうだね!」

「でもそれだと俺とルージュとシルビアが不利じゃないか?」

「そうね。だってアレン様やオーウェン様は、私達より1年も多く魔法を使っているわけだし」


シルビアがイッシュの意見に乗っかると、今度はお兄様がひらめいたように言った。


「じゃあさ、僕とオーウェンが探す役をしてルージュたち3人は隠れる役なんてどう?

それで、僕たちは魔法を使わない。

けど、ルージュ、イッシュ、シルビアは1人1度だけ使って良い…っていうのは?」


「それなら、楽しそうだわ!」

シルビアは目を輝かせた。


「どう?ルージュ。

このルールで問題あるかな?」


お兄様が振り向き、私に向かって言う。


「とっても楽しそう!いいなぁ、私が参加したかった…え?」

心の声のつもりが、口から出ている事に気付き慌てて口を押さえる。


「…?ルージュ?どうしたんだ?」

イッシュが心配そうに、私の顔を覗き込んだ。


「あ!ううん!

とっても楽しそう!私も参加したいわ!

って言おうと思ってたの。えへへへ」


とっさにそう言うと、お兄様が頷いた。


「勿論、全員参加さ!じゃあやろっか?」


隠れる場所の範囲など、細かなルールをみんなが決めている時、耳元でサニーの声が聞こえた。


「今回は、解けるのが早かったな?」

「そうね…凄く長い時もあるし、選択した後はすぐ動けるときもあるし…」


ここ2年で色々な選択死という呪いを受けてきたが、やっぱりルールなどは存在しないようで私たちは一切予測が出来なかった。


そして、かくれんぼが始まる。

ルールは私の家の敷地内。

敷地内といっても範囲が広い為、屋敷の中は禁止で、外だけが隠れる場所になる。


そして、魔法は1人1回限り。

3人は一緒に隠れても良いし、別々でも良い。


「じゃあ、僕たちが3分測る間に3人は隠れてね」

そう言って、タイマーがスタートされた。


「どこに隠れる?」

「ルージュ、一緒に隠れましょう!」

「あ、ずりぃ!俺も俺も!」


そんな話をしながら私達は、お茶会の場所とは逆方向へと走っていった。


「なぁ、ルージュ!

ここもルージュの庭だよな?」


「ん?あぁ、そうね。

まだ手入れがされてないから誰も近寄らないけど…あ!」


そう言って、私達は同じことを思いつく。

誰も近寄らないなら、見つからないかも!


そうして私達は…

敷地内とはいえ、もはや『森』と呼べる場所へと足を運んだのだった。


「うひゃぁ~、広いな!

ここって本当に森じゃん」

「そ、そうね…何だか不気味な感じもするし…」


イッシュの言葉に怖がるシルビアが、私の腕をギュっと握った。

普段強気な発言が多いシルビアの行動に、私は可愛いと思って笑ってしまう。


「あ。ちょっと待って。

誰か…帰り道覚えてる?」


「「え?」」


私の発言に固まる2人。

自分の家の敷地内とはいえ、整備もされていない森を進んでいってるようなものだ。

道を覚えていなければ、帰れないかもしれない。


「あちゃ~…大丈夫かし…ら…」

私はそう言いながら、遠くに何か黒いものを見た。

不気味に感じて、私は思わずイッシュの手を引き、近くに引き寄せる。


「ど、どうしたんだ!?ルージュ!?」

私に抱き着く形となってしまったイッシュは顔を赤くしているが、私はそれどころではなかった。


「何か…何かいるわ…」


私のその発言に、2人も緊張した面持ちで目の前を凝視する。

そこにいたのは…見た事もない黒い獣だった。

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