第68話

あれからまた数週間が経過した。

ウルティは見つからなかったが、カール宛に手紙が届いた。

手紙というより、メモ書きのようなものだったけど。


それは確かにウルティの文字で、


『自分の道を見つけた。

これからは自分の意志で生きる。

今までありがとう』


とだけしか書かれてなかったが、それを見て安心したカールは涙を流していた。


街に行ったらやっぱりウルティの姿を探してしまうけど、本人が無事だと分かった今は私も少しは安心したのだった。


フォン家の事はまだ気がかりだけど…

どういう経緯でウルティがフォン家の人間だと分かったのかもゲームでは描かれていなかった以上、今の私がやれる事は無い。



そして、私は今お茶会を開いていた。


お茶会と言っても令嬢達をたくさん呼ぶ大々的なものではなく、数人だけを招待した小さなお茶会だ。


「皆様、本当にご迷惑をおかけしました。

もう私は大丈夫です!

その…心配させてしまったお詫びというか、お茶とケーキを用意してもらったので楽しんでください」


それだけ皆に伝えると、一斉に私の元に駆け寄ってきた。


「ルージュ、本当にもう大丈夫なの?私すごく心配で…」

「あまり無理をしちゃいけないよ?

私に協力できる事があれば、いつでも…」

「そうだぞ!授業も無くなって寂しかったんだからな!」


シルビア、オーウェン、イッシュが心配そうに一斉に話しかけてくる。


「…ふふっ。みんな、本当にありがとう!

もう本当に、大丈夫。

ウルティは見つからなかったけど…私も自分を責めすぎるのは良くないと気付けたの。

これからはまたカリーナ先生の授業も受けるし、いつもの生活に戻るつもりよ」


私がそう言ってニコリと笑うと、シルビアが抱き着いてきた。


「もう…!久しぶりに見てもルージュは可愛いんだから!」

「も、もう!シルビアったら!」


シルビアが涙目になっていたのを私は見てしまい、抱きしめ返す。


「コホン。シルビア嬢?

まだルージュは本調子じゃないはずだ。

あまり抱き着くのもどうかと思うけど」


オーウェンがそう注意した為、私は慌ててシルビアを引き剥がす。


「ご、ごめんなさい!

はしたなかったわね!」


そう謝ると、シルビアは溜息をついた。


「大丈夫よ、ルージュ。

どっかの心の狭い誰かさんが勝手に言ってるだけだもの。

私達、女の友情に嫉妬でもしてるのかしら?」


「な!?私はそんなつもりでは…!」

「まぁまぁ」


シルビアと出会ったあの日から、私はシルビアと一緒に過ごす事が増えた。

そのため、オーウェンやイッシュとも仲良くなって、今はお互いを呼び捨てで気兼ねなく話せるようにもなったのだ。


三大貴族に王族に…

最初はシルビアも顔を青くしていたが、慣れてきたらいつものシルビアで。


ここ最近はオーウェンと言い合う事も増えてきた。

オーウェンも何だかシルビアに出会ってからは、子供らしくなった…というか。


ゲームではスマートでカッコいいキャラクターって感じだったけど…

まぁ、今の方が親しみやすくて、私は好きなんだけどね。


そんな事を考えていると、ふと少し離れた位置にカリーナ先生の姿を捉えた。

お茶会にはカリーナ先生にも来てもらったのだ。

私はすぐに先生の元へと駆け寄った。


「先生!」

「ルージュ様。元気になられたようで、本当に安心いたしましたわ」

「心配をかけてしまって、ごめんなさい」


私がそう謝ると、先生は優しく私の頭を撫でてくれる。


「良いのですよ、ルージュ様。

話はカール様より聞かせて頂きましたが、ルージュ様はお友達の事を思っての事だったのでしょう?

今回の事が、ルージュ様をまた1つ成長させたのではないかと、私は思っておりますわ」


そう言ってニコリと笑う。


「ありがとうございます。先生。

この間に話した通り、また授業を再開させていただきますので、よろしくお願いしますわ」


そう言ってお辞儀をする。

その様子を見て、カリーナ先生は


「ふふ。マナーは衰えていないようですし、心配はしておりませんのよ」

と、またニコリと笑うのだった。


「こんな素敵なお茶会にも招待して頂いて、嬉しく思っておりますわ。

ルージュ様、ありがとうございます」


「そ、そんな…!

あ…コホン。お褒めに預かり、光栄ですわ」


先生の言葉に思わず謙遜しそうだったが、ハッと思い出し貴族らしい返事をする。

それを見た先生も楽しそうにクスクスと笑った。


「私には気遣わず皆さんと一緒にお話でもしてきてください。

私はここで、マリア様達とお話でもしながらお茶を頂いておりますので」


そう言って、お父様とお母様、それにカールも交えて談笑し始めた。

私は返事をして、皆の元へと向かった。


「ルージュ!

先生への挨拶はもう良いの?」


お兄様が私に気付いて駆け寄ってくれた。


「うん!みんなと遊んでおいでって!」

「そっか。じゃあ…どうしよっか?何して遊ぶ?」


お兄様がそう優しく問いかけ、他のみんなもニコニコと私を見ている。


すると…

目の前にまた、選択肢が浮かび上がった。

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