第66話
あれから数週間が経過したが、家のどこを探してもウルティを見つける事が出来ず、外に探しに行っても見つからないままだった。
「ルージュ。そろそろ元気出して?きっと、すぐ見つかるよ!」
落ち込む私を見て、お兄様は気遣ってくれる。
「…ありがとう、お兄様。
でもやっぱり、私が酷い言い方をしてしまったから…って考えちゃうの」
「そんな事…!
僕も後から話は聞いたけど、ルージュの言い分は最もじゃないか!
あれはルージュへの忠誠じゃないよ…依存だ」
お兄様は悔しそうにそう吐き捨てた。
家の誰もが、ウルティを嫌っているわけではない。
親に捨てられ、愛情を知らない子。
かわいそうな子。
それでも、一時期は明るかったのだ。
私に依存する事で。
「でも、やっぱり私の言い方が悪かったのよ。
強く言い過ぎたのかもしれないし」
あれから、カールや護衛の皆にも頼んで街を散策してもらったりもした。
それでも誰も見つけられていないのだ。
暫くしてお兄様は部屋を出て行った。
「ウル…」
私は呟く。
8歳の頃には気付かなかったけど、不安定だったウルティ。
そんな子に、経緯がどうあれ唯一の支えだった私。
もう少し考えて喋るべきだった。
それに、今は誰にも知られていないがウルティは三大貴族だ。
その事をゲームと同じく本人が知る事になるのか、この事が原因で更に道をそれてしまったらどうしよう。
「ジュ!ルージュってば!!」
「えっ!?は、はい!?何でしょうか!?」
急な呼びかけに驚いてそう返事をすると、サニーが呆れたように溜息をついた。
「あのなぁ…大丈夫か?」
「え、う、うん。どうして?大丈夫よ?」
「いやいや、聞いておいてなんだが、大丈夫じゃないだろ。
お前ウルティとかいう奴の事…気にしすぎじゃないのか?」
そう言われて私はまた落ち込んでしまう。
「だって…私のせいで、人1人の人生をダメにしてしまったのかもしれないじゃない?」
「そんな大げさな…」
「いいえ!大袈裟なんかじゃないわ!
サニーには話したじゃない。
ウルティは…本当は三大貴族、フォン家の人間なのよ?
それを知るためには、私と一緒に学園に通う必要があったのかもしれない」
「はぁ…なら、執事として迎えるっていうのか?」
「…それは嫌、だと思ってたけど。
こんな、行方不明になるぐらいなら…」
私はしどろもどろになる。
「なぁ、ルージュ。もうどうしようもねぇんだ。
そろそろアイツがいなくなって1カ月だぞ?
こう言っちゃなんだがなぁ…お前は気にしすぎだと思う。
アイツの人生はアイツが決めるんだ。
お前がそこまで背負い込む事ないだろ」
「いや、そんなつもりは…」
「いいや!この際だから言わせてもらうぞ!」
いつもの小言を言う感じでは無く、サニーは本当に怒っているようだった。
「お前さ、この世界をゲームとやらで知ったからって…神様にでもなったつもりになってないか?」
「なっ…何よ、それ!!」
流石に私もカチンと来て言い返すと、サニーは溜息をついた。
「なら、なんで『お前』が8歳の頃に少しばかり遊んでいた相手の事をここまで想う必要があるんだよ?」
「そ、そりゃあ…友達だもの」
「本当に?4年も会って無かったのに?
それほどの愛情が本当にアイツにあったのか?」
「あったに決まってるじゃない!何が言いたいのよ」
「だからぁ!お前はこの世界で大して知りもしない奴を、ゲームってやつで知ってるからって知った気になってるんだよ!
お前が感じてる愛情も、ゲームでのウルティだろ?
本当に今この世界のウルティに、愛情を持ってるって言いきれるか!?」
そのサニーの言葉に思わずハッとする。
確かに、私が気にしていたのはフォン家になる予定のウルティ。
私の執事として学園に入学して、主人公と友達になって、恋をして…
そんな、幸せになる予定のウルティしか知らない。
「分かったわよ…」
「ル、ルージュ?」
「サニーが言いたい事は分かったわよ!
そうよ、私はウルティの事なんて何も知らないわ!
一緒に遊んだのだって数えられるぐらいよ!!
…でも、だからって、どうしたら良いのよ!
そんな、そんな意地悪言わないでよ…!
怖いのよ。私が大きく変えてしまう事が!
本当は幸せになれるはずなのに、この事でウルティが幸せにならなかったら?
…し、死んでしまってたら…どうしたら良いのよ…!」
私はそう叫んで泣き出してしまう。
サニーはすぐに私のクローゼットの引き出しからハンカチを取り出し持ってきてくれる。
「ルージュ。ごめん。俺が大人げなかった」
「何よ。サニーだって子供じゃない」
悪態をつくが、サニーは言い返さずに続けた。
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