第65話
「正直に言うよ、ルージュ」
「うん」
お父様は困ったような表情のまま、話し始めた。
ウルティが捨てられた後、カールが養父になった事。
本当の親が誰かは分からない事。
でも、ウルティは赤ちゃんの時の記憶があるから…
生々しく、自分が捨てられた瞬間を覚えている事。
そして、カールと出会ってからずっと…
性格に難があった事。
そんな時に、私と出会う。
慕うというよりは執着に近い物をお父様達も感じていたけど、私と出会った事でまともになり毎日を楽しそうに過ごすウルティを見て、お父様達は私の専属執事にする事を決めた。
そして、ウルティはその事だけを生きがいにして今日まで生きてきた。
それを知っていたお父様とカールは、できるだけ私の執事にしたいと考えていたようだ。
「すまなかったね、ルージュ。
決してルージュの気持ちを
信じて欲しい」
そう言ってお父様は私の手を取った。
「わかってる。お父様もカールも、ウルティの事を思っての事だったのよね」
「ああ。…でも、それでもまずはルージュに確認を取るべきだったね。
確認もせずに、きっと大丈夫だろうとウルティにも変に期待をさせてしまっていた」
そう言って、またお父様は頭を抱えた。
「お父様…ウルティは、どうなるの?」
私がそう聞くと、気まずそうにお父様は答えた。
「うん…そうだな。専属では無くとも、執事業務は完璧だ。
アレンの世話係として引き続き雇いたいところだけど…」
「そっか…」
私はお父様の言葉を考える。
「あれ?そもそも、お兄様の専属執事にしたら良いんじゃないの?」
私がそう聞くと、お父様はギクリとした。
「…お父様?」
「い、いやぁ。アレンには専属従者はいらないと言われてね。
でも、本当はいた方が良いんだぞ?便利だし、パパも心配だし…」
正直、この国の治安はあまり悪くない。
出かける時に護衛を付ける事はあっても、わざわざ専属従者を付けるというのはあまり聞かない話だ。
「なら、私もいらないわ!
必要があればサーシャを連れて行くし、護衛が必要ならそれこそ護衛騎士を連れて行けば良いだけだもの」
「うう…こうなるからアレンの事も言いたくなかったんだ」
お父様は残念そうにしていたけど、結局私に専属従者はいらないという事で話は落ち着いた。
「というか、お父様は心配しすぎよ!!」
私は最後にそう言って、お父様の部屋を出た。
***
「はぁ…一体何の話し合いだったのかしら。
結局専属執事なんて付けない事になったし…」
部屋に戻り私がそう呟くと、姿を戻したサニーが心配そうに言ってきた。
「なぁ…アイツ、放置してていいのか?」
「アイツって?」
「だから、あの攻略対象って奴だよ」
私はウルティの顔を思い浮かべる。
「関わらなければ、別にそれでいいとは思うけど…」
そう言いながらも、ウルティの絶望的な顔を私は思い出していた。
私が悪いわけではないと思うけど…それでも後味が悪いのは確かだ。
何より…
『死んでやる』と叫んでいたウルティが忘れられない。
「はぁ…ルージュ、お前」
「な、なによ?」
サニーがまた呆れたようにこちらを見た。
「本当は、気になってるんだろ?」
「う…だって。一応、友達だし…」
サニーを見ると、意外にも笑っている。
「あれ?怒ってないの?」
不思議そうに聞くと、サニーはやれやれと首を振りながらも口元は笑っていた。
「まぁな。もうお前の事には慣れてきたし…
何て言うかさ、ルージュらしくて良いと思うぞ俺は」
「私らしい…?」
「うん。多分、あれだけ危険そうな奴でもお前は助けるんだろうなって思ってたから。
どうする?追いかけるなら探すの手伝うぞ?」
「サニー…」
関わらない方が良いとは思う。
もしかしたらエンディングに関わってくるかもしれないし。
それでも…泣いているウルティと、8歳の頃の無邪気な笑顔をしたウルティを私は忘れられないようだった。
「ありがとう、サニー。
そうよね!考え込んでても仕方ないわ!
私に何が出来るか分からないけど…とりあえずウルティを探しましょう!」
今にも自分を傷付けてしまいそうな…
そんなウルティを、放っておく事はやっぱり出来ない。
そう思って探し始めた。
でも…
この時の判断が間違っていたのか。
それとも、もう少し早く判断していたら運命は変わっていたのか。
どっちにしろ、私は後悔する事になるのだった。
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