第61話
「ちょっと待ったぁぁ!!」
「な、なに!?サニー!?」
「うおお!」
突然の大声に私もお父様もビックリしていると、サニーは少しだけ恥ずかしそうに言った。
「つ、常に一緒にいて、悩みを相談したいなら…
俺がいるじゃんか!!」
「「…え?」」
私とお父様の声が重なる。
サニーは顔を真っ赤にしながら続けた。
「だからぁ!別に、もう俺がいるんだから、いいだろ!
…その、常に一緒にいる友達は」
自分の立場を取られると心配しているのだろうか。
「…ふっ…ふふはは!!」
私が我慢できずに声を出して笑うと、サニーは私の肩を蹴飛ばしてきた。
全然痛くもないけれど。
「待って待って!ごめんサニー、からかうつもりじゃないのよ!」
すると、声を殺して笑っていたお父様も続けた。
「そ、そうだぞサニー。専属従者っていうのは、あくまで従者だからね。
どうしたって『友達』にはなれないんだ。
ルージュが格上になってしまうからね」
お父様の言葉に私もハッとした。
私も友達のような関係を少し考えてしまったけど…
そうよね。あくまで専属のメイドだもの。
仕事の一環だわ。
「だからね。サニー。
常にルージュといて、ルージュを守ってくれている友達は…
たった一人、サニーだけなんだよ?」
お父様が優しくそう言いながら、指先でサニーの頭を撫でる。
サニーはキラキラの目でお父様を見上げていた。
「俺だけ…」
「そうだよ。これからもよろしく頼むね?サニー」
私はそれを見て、お父様はやっぱり人を乗せるのが上手いなと感じる。
「おう!任せてくれ!俺はルージュの友達だからな!」
すっかり乗せられたサニーは得意げだった。
「それで、話を戻すけどねルージュ」
「あ、はい!」
「ウルティの事は覚えているかな?」
その名前を聞いて、鼓動がドクンと脈打った。
「ウル…ウルティ…そうよ、ウルティだわ…ウルティ…」
思わず動揺してしまう。
どうしてすっかり忘れていたのか。
記憶を取り戻す前。
8歳の頃によく一緒に遊んでいた、執事見習い。
ウルティ=ダーツ
彼は…攻略対象者の1人なのだ。
***
私や主人公と同級生のウルティだけど。
やっぱりというか何と言うか、お兄様達の卒業式の日。
ずっとただの執事だと思っていたウルティの正体が明かされる。
それは、実は貴族だったというもの。
それも高貴な。
ゲームでは気付かなかったけど、ウルティの本名はウルティ=フォン。
つまり…私やイッシュと同じ三大貴族なのだ。
そんなウルティのエンディングは…
わざわざ壇上に上がり、マイクを持つウルティ。
人前に出る事に慣れていない為、顔を赤らめながらも幸せそうに全校生徒にこう言った。
『身分に関係なく、私に優しくしてくれた。
私に愛を教えてくれた…そんな女性がこの中にいます。
上がってきてくれますか?』
その言葉に、壇上に上がる主人公。
『愛しています。
やっとあなたに愛を伝えられるだけの身分を、私は勝ち取りました。
あなたの為に。
私と…結婚してくれますか?』
そんな重いとも取れそうな言葉に、主人公は涙する。
『ウルティ。とっても嬉しいわ!
私は、あなたがどこの誰だろうと、愛しているもの!』
…まぁ、これで終われば私にとってもただのハッピーエンドなんだけど。
勿論、これで終わるはずがない。
だって、TRUE END以外、私は絶対に死ぬのだから。
主人公とウルティが手を取り合うと、ゆらゆらと1人の女が壇上に上がる。
『許さない。許さないわよ。ウルティ…あなたは私のものでしょう?』
今にも襲い掛かって来そうな、不気味な雰囲気を纏った女。
それが私、ルージュだ。
『あなたのものになった覚えは無い!!』
冷や汗をかきながらも叫ぶウルティ。
『何言ってるの…?
だって、約束したじゃない。私の側にいるって。
それなのに…あなたも、そうなのね。
私よりも、その女を選ぶのね?』
『側にいると言ったのは、私が執事だったからだ!
専属執事でなければ、誰が貴様なんかと一緒にいるものか!!』
そう、ゲームでのウルティは私の専属執事だったのだ。
『何よ、それ…ふざけるな。ふざけるな、ふざけるな!!』
そう言って発狂した私は、どこから持ってきたのか分からない短剣を手にし主人公へと突進する。
だが、それを制したのはやはりウルティ。
『今、貴様は私の大事な物を傷付けようとした。
許される事ではない!!』
そう言って、腰にぶら下げていた剣を抜き…
私に切りかかったのだ。
『どう…して。どうしてよ…ウル…』
その言葉を最後に、私は息を引き取る。
『ウルティ…怖かった!』
そう言ってウルティに抱き着く主人公。
『怖い思いをさせて、すまなかった。
これからは絶対に怖い思いはさせない。
私がきっと守り抜いてみせる。
だから…』
『ウルティ…』
『一生、一緒にいよう』
そう言って主人公の名前を愛おしそうに呼び、ウルティは主人公を抱きしめる。
これが、ウルティルートの結末だ。
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