第58話
お父様の部屋に着くと、お父様は少し落ち込んでいるような顔をしていた。
「お父様?大丈夫?」
「ルージュ…あぁ、ルージュゥゥ!優しいなぁルージュは!」
「きゃっ!もう、お父様!」
私を抱き上げたお父様を叱る。
いつもこうだ。もう12歳だというのに。
「はぁ…」
私を降ろした後、今度は大きな溜息をついた。
「お、お父様?本当に大丈夫…?」
「…大丈夫だ。いつかはこの日が来ると思っていたさ。
ルージュ、今日は大事な話が2つあります」
「は、はい」
お父様は諦めたようにそう言って、仕事机から私の対面へと座り直した。
「ルージュ」
「はい」
「もう12歳だね」
「そうですね?」
「…」
「…」
神妙な面持ちでお父様が黙り込む為、私も緊張してくる。
「だぁ!もう!なんなんだ!早く言えよ!」
そう言ってサニーが私の肩から飛び出した。
「サニー!?来てたのかい!?」
「当たり前だ。俺はいつでもルージュと一緒にいる。で?なんなんだ?」
サニーにそう言われ、お父様はボソリと呟いた。
「…婚約の話だ」
「「…は?」」
私とサニーの言葉が重なる。
ついに来てしまったのだ。オーウェンとの婚約が。
今の関係性なら大丈夫かもしれないとも思うが、確信が無い以上。
出来るだけ近い関係にはいたくない。
私とサニーは顔を見合わせて、頷き合った。
「お、お父様?まだ早いんじゃないかしら?私まだ12歳よ?」
「そうそう!ルージュにはまだ婚約なんて早いって!」
「そうよそうよ!まだ学ぶ事も多いし…お父様なら断れるわよね?」
私達のその様子を見て、明らかに顔を輝かせるお父様。
「勿論だ!ルージュの意志が大事だからね!ルージュが婚約したいと言うなら受けようと思っていたけど…そうかそうか!ルーもまだ嫌なんだね!」
ニコニコとするお父様を見て、何だか複雑な気分になった。
こんなにあっけなくOKされると思わなかったのだ。
「パパもね、ママとは恋愛結婚だからね…。無理して婚約者を決める事は無いんだよって一応説得もしようと思っていたんだよ。いや~良かった良かった」
お父様の気が変わらないうちに、私もサニーも話を合わせる。
「私も、お父様やお母様みたいに恋をして結婚をしたいわ!それにはちょっとこの年だと早すぎるし!」
「そうそう!それに、ルージュにあの小僧は似合わないんじゃないか?なぁ!」
「そうよね?あー、お父様が断ってくれて本当に嬉しい!!」
私とサニーのそのやり取りに、お父様が不思議そうな顔をする。
「…小僧?」
「ん?あ、ああ。悪かった。一応王子だもんな。小僧って言い方は悪かったな」
「そ、そうよサニー!いくら友達とは言え、オーウェンだって王子なんだから!」
「何で、ここでオーウェン王子の話が?」
「「…え?」」
また私とサニーの言葉が重なる。
「何だ、2人とも。まさかオーウェン王子と婚約させられると思っていたのか?」
「え、ええ…違うの?」
するとお父様が少し困ったような顔をした。
「残念だけど…王族と三大貴族は婚約出来ないんだよ、ルージュ」
「…え?嘘…」
私が固まっていると、お父様は優しく説明してくれる。
「なるべく王族と三大貴族の均衡は崩したくないんだ。
例えばオーウェン王子とルージュが結婚したとしよう。
『三大貴族』と言っていても、他の貴族よりホルダー家が上だと見られてしまうと思わないかい?
だから、今回婚約の話が出たのも三大貴族とも王族とも違う家からいくつか申し込まれていてね。
ルージュがその気ならそこから選んで貰おうかと思ったんだ。
…どうする?一応、婚約者候補を見てみるかい?パパは気乗りしないけど…」
「そんな…嘘よ。だって…でも。なら、なんで…」
「…?ルージュ?どうしたんだい?」
ゲームでは、オーウェンと婚約していたはずだ。
私がそう1人で考え込んでいると、サニーが叫んだ。
「うわっ!びっくりした…!おい、ルージュ!」
「え!?何…」
顔を上げるとそこには選択肢が。
『A.オーウェンと婚約できないなら死ぬと泣き叫ぶ』
『B.イッシュと婚約したいとお父様に提案する』
『C.だれとも婚約しないと怒る』
「え…これって…」
「ここで登場、だな」
そこでやっと理解できた。
「そっか。ゲームでの私は、Aを選んだんじゃないかしら?」
「あぁ。だから、本来ならあり得ないはずだが、オーウェンと婚約してたって事か」
「多分、ね」
そして私はまた考え込む。
「どうした?ルージュ」
「仮契約して、内容はともかく私の態度って変わったじゃない?」
「ああ。そうだな」
「でも見てよ。今回のCを。内容に既に『怒る』が含まれてるのよね…」
「う…って事は久々に、あの理不尽にキレ散らかすお前が見れるのか」
「はぁ…多分。そういう事」
私は不安を感じながらもCを押した。
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