第57話

ハッキリそう言われ、私は思わず顔が赤くなってしまった。

でも、ここはハッキリさせておかないといけない。


「で、でもね!私がもっと小さい頃は、貴族の教養がなってなくて…メイドの皆に笑われているな…っていう自覚はあったのよ?」


そう言うと、サーシャの手が止まった。

そして膝から崩れ落ちる。


「サ、サーシャ!?どうしたの!?」

「そんな…お嬢様にそのようなトラウマを植え付けてしまっていたなんて…私どもはなんて愚かな事を…」


「い、いやトラウマって程じゃないわよ?ただ、よく笑われているのを見て『私が貴族らしくないからだわ』って自覚はあったというか…」

「いいえ!そこが違うのですお嬢様!!」


サーシャはそう言って立ち上がった。


「みんな、お嬢様を見て愛らしく思っていて…思わず笑顔になっていただけなのです!貴族らしくないというのは、正直そうだったのかもしれません。

ですが正直に言いましょう!

私達は…貴族らしくなくても笑顔で走り回っているお嬢様が愛おしくて愛おしくて…

それを馬鹿にして笑っていたなんて、とんでもありませんわ!!!」


「わわわ、わかったから!落ち着いて!」

「…ハッ!失礼しました。私ったら、我を忘れてしまって…」


恥ずかしく思いながらも、私は続けて疑問を口にする。


「…あの。お父様が貴族の勉強をしなくて良いって言った時、皆嫌じゃなかった?仕えている家の娘が、そんなワガママで勉強をしないなんて…」


「とんでもありませんわ。むしろ、あの時の家庭教師を全員が恨んだものです。

…あの時の家庭教師がどうなったかご存知ですか?」

「え。どうなったの?」


私がそう聞き返すと、サーシャはニヤリとして見た事のない悪い顔をした。


「ふふ。ラウルス様の命令でクビになった後は、どこも雇ってくれなかったはずですわ。…私どものネットワークを舐めていたせいです。ざまあみろってやつですね」


絶対にいつものサーシャでは無い。


「サ、サーシャ?」

「…ハッ!失礼しました。また私ったら、我を忘れてしまって…」


「…コホン。えっと、じゃあ私の事を恨んでいたような人に心当たりはないって事?本当に?」

「ありませんね」


私の問いに、すぐに返事をするサーシャ。


「お嬢様。お嬢様は幼い頃から可愛らしく、みんなを虜にする力を持っていますわ」

「え、それは言い過ぎだって…!」


「いいえ!言い過ぎなどではありません!…10歳のお誕生日の時にドレスを仕立てて頂いた方を覚えていますよね?」

「…!もちろんよ!あれから、ドレスを買うときはあそこのお店でお願いしているのよ!」


記憶を思い出す前の事だ。

私のドレスの希望を優しく聞いてくれたお姉さん。

あのお姉さん…仕立て屋さんが気に入って、あれ以来ドレスは向こうで買うようにしている。


「ふふふ。それも、あの仕立て屋の方がラウルス様に頼み込んだのですよ?」

「え?」

「お嬢様のドレスをまた仕立てたいから、金額を下げても良いからまた来て欲しいと」

「そうだったの?」


驚いて聞き返すと、サーシャはクスクスと笑った。


「そうですね。でも、丁度お嬢様も気に入ったからと、ラウルス様が金額はそのままで良いとお伝えして、あれ以来あそこの仕立て屋に通うようになったと…そういう事でございます」


その言葉を聞いて私は嬉しくも恥ずかしくもあった。

今までワガママで色んな人に迷惑ばかりかけてきたと思っていたけど、少しだけ考えすぎていたみたい。


私が思う以上に、みんなは私の事を好きでいてくれたんだ。

そう思うだけで私もみんなの事を大事にしようと思えるのだった。


「はい!出来ましたわ、お嬢様!」

鏡を見て私は満足する。

ぐちゃぐちゃだった髪からまた綺麗になった。


「いつもありがとう!サーシャ!」

「とんでもないですわ。では、行ってらっしゃいませ」

「はーい!」


私はそう元気よく返事をして、すぐにお父様の元へと向かった。

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