第56話

「ええ~何だよ。面白くねぇ~」

「悪かったわね!」


私がそう言うと、サニーは私が以前から書いていたメモ書きを机の引き出しから取り出した。


「これか…攻略対象」

「うん」

「アレンもそうなんだよな?」

「そうね。お兄様はそのゲームではメインヒーロー…つまり、何て説明したら良いのかしら。主人公の好感度が一番上がりやすい人?と言うのか」


「ふ~ん。

じゃあさ、その学園にアレンが通えば寄ってくる女がその『主人公』って奴なんじゃねぇの?

主人公は同じ呪い持ちだから呪いの事話せるんだろ?

じゃあそいつに呪いの事を言えば、お前が言う『バッドエンド』ってのも回避できるじゃん!」


良い事を思いついたとでも言うサニーに、私は溜息をついた。


「分かって無いわね。サニー」

わざとらしく私は続ける。


「あの、お兄様よ?モテモテに決まってるじゃない!

学園中の女全員を調べるつもり?

たった1人の為に全員に呪いについて話しても、あの痛みを味わうだけだと思うのよ。

だから、もっと確実な方法を…ってサニー?どうしたの?」


話している途中からサニーの視線は冷たいような、呆れたような視線になっていた。


「お前ってさ…」

「うん。なによ?」


「…結構ブラコンだよな」

「んなっ!!!」


その言葉に顔を真っ赤にする。

「いいい良いじゃない!別に!仲が良いってのは良い事なんだから!」

「あ、否定はしないんだな」

「なによ!もう!」


そりゃあお兄様は大好きだし、簡単に否定する事は出来ないわ。


「まぁいいや。人間の感覚は分からんが、パーティで見ててもアレンはモテてるようだったしな」


「そうでしょう?

私も、お兄様にもイッシュにもオーウェンにも殺されたくないもの。

主人公を探し出してTRUE ENDにはもっていきたいのよね」


「なぁ。俺思うんだけどさ」

「うん?」

「もし、その『とぅるーえんど』ってのを迎えなかったとしても…アレン達がお前を殺すのはありえないんじゃないか?」


サニーを見ると、真剣な顔でそう言っていた。

私もそれは考える事がある。


「私もね…正直、今の関係性で皆が私を殺すとは思えないの」

「だよな?」

「うん。でも…どうしてもゲームのエンディングは忘れられないし…呪いなんて、何が起こるか分からないじゃない?私の呪いの影響がお兄様たちにも及んで、私を殺しちゃうかもしれないでしょ?」

「ルージュ…」


私がそう言って笑うと、サニーは心配そうに私の頬にすり寄ってきた。

サニーとはとても仲良しになったし、今はこうやって恥ずかしがらず私に優しくしてくれる。


「ありがとう。サニー。大丈夫だよ」

「そっか。ところでルージュ。さっきの話だけど…」


サニーは何か言いかけていたが、部屋にノックの音が響いた。

返事をすると、入ってきたのはサーシャだった。

あれ以来、サーシャはまるで私の専属メイドのようになっている。


「お嬢様。ラウルス様がお呼びです。…まぁ!髪が少し乱れてしまっていますね。直してから向かいましょうか」

「あ…ごめん。お願いできる?」

「もちろん!」


どうやらベッドでゴロゴロしていた為、髪がぐしゃぐしゃになってしまったようだ。

髪を直してもらいながら、私はサーシャに聞きたい事があったのを思い出した。


「サーシャ?あの…言いづらい事かもしれないけど、答えてくれる?」

「え?な、なんでしょう?お答えします!」


私は少し考え込んでいた。

実は、12歳を迎える際にお父様に頼んで屋敷にいる全員を集めて貰って挨拶したのだ。

勿論、全員の名前を憶えたかったからというのが第一の理由。

そしてもう1つは…私に呪いをかけた人がこの場にいるかどうか、だった。


そして私の目の前に全員を並ばせて、1人1人と改めて挨拶を交わした。

その時に肩に乗るサニーに、みんなのオーラを見て貰ったのだ。


だが結果は…

全員が私の事を好いてくれている。という事だった。


でも、私はゲームの事を思い出す前はもっとワガママだったのだ。

恨まれていてもおかしくないはず。

ずっとそれが気になっていた。


「あのね、サーシャ。

この家で働いてる人で、私が産まれてから辞めた人はいないのよね?」


「…?はい、そうですね?ここ15年で辞めた人はいないと聞いております」


「そうよね。あのね?思い切って聞くんだけど…。

私って、その。10歳ぐらいまでは凄くワガママだったじゃない?

それなのに、みんなが良くしてくれるのが気になっちゃって。

あ、勿論、嫌じゃないのよ?ただ、こんな私を好きでいてくれてるのが不思議で。

もしかして、私の事を恨んでいる人がいないかなー?って聞きたくて…」


「おおおお嬢様!!!」

「ええええっ何!?」


私が話していると、突然サーシャが大声を上げた。


「す、すみません。ですが、誰かが何か言っていたのですか!?

誰ですか!?いいえ、誰というか、もしそういう人がいればきっとその人は悪魔に取りつかれているはずですわ!!」


「ええ…悪魔!?」

「だって、ここに務めている者でお嬢様の事を嫌に思う人なんて、いるはずありませんもの!!」

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