第55話
「…なぁ、ルージュ」
「なぁに?」
寝転びながら返事をすると、サニーが私の顔の前まで飛んできた。
「あのさ。ずっと気になってたんだ。やっぱり聞きたいから、聞いても良いか?」
「え、何よ改まって。何でも聞いて良いわよ?」
「じゃあさ…お前がまだ俺に言ってない事。聞いても良い?
たまにお前から出てくる『主人公』『攻略対象者』って言葉も良く分からないし、今日の魔力も…本来であればお前の魔力が強いはずないって、まるで分かっているようだった。
それに、選択死についてもだ!
3つの選択のうち死ぬ選択肢が1つしか無いって、どうして分かる?3つ全てを試す事なんて出来ないのに」
私はそれを聞いて黙っていた。
サニーと出会ってから、ゲームの事をサニーにだけは話そうと何度も思ったが、勇気が出なかった。
だって…この世界は私が知ってるゲームの世界です。
なんて普通信じるだろうか?
それに、自分が生きているこの世界を創り物だと否定しているようで何だか怖かった。
「ルージュが何かを言いたそうにしてる事も、迷ってる事も俺は気付いてたよ。
だから待ってたんだ…でもさ、この1年呪いをかけた奴は見つからないし、手がかりも無い。お前の呪いを解く為に少しでも何か分かるなら、話してくれよ」
私はその言葉を聞いた後、どんどん視界が滲んでいくのが分かった。
「…ははっ。やっぱり泣き虫だなぁ、ルージュは」
私が泣いているのを見て、サニーはそう笑うのだった。
暫くして、私が体を起こすとサニーがタオルを持ってきてくれていた。
「ほら」
「ありがとう」
タオルを受け取り、涙を拭く。
「サニー、ごめんね。私の呪いを解くために色々と考えてくれていたのに。信頼していないわけじゃなかったの。ただ…あまりに信じられない話だから」
私自身、ゲームをしていた前世の記憶が嘘なのではないかと思う事もあるのだ。
見覚えがある事が多くて、『ゲームでやった』なんて思い込んでるだけで本当はそんなゲームも前世の記憶も存在しないのではないか。
だって、このゲームの事以外何も覚えていないのだ。
「何を悩んでるのか知らないけどな、俺は何でも聞くからさ。あまりにおかしい話で笑うかもしれない。でも、お前の話は俺がぜーんぶ、信じてやるよ!」
そう言ってニカッと笑うサニーを見てると、何を悩んでいたんだろうと私もおかしくなり笑ってしまうのだった。
***
そして私は、前世の記憶の事。
ゲームでこの世界を知った事。
ゲームでは私が悪役令嬢だった事。
選択死の事。
知っている事を全てサニーに話した。
ふざけて笑うかとも思ったが、意外にもサニーは全部を真剣に聞いて一緒に考えてくれた。
「うん…そうだな。それだけハッキリしてるなら、やっぱり前世の記憶は間違い無いんじゃないか?」
「そ、そうかな…でも、そうなるとこの世界はゲームの世界って事に」
「ん~そこなんだけどさ」
「うん?」
「精霊王から聞いた事がある。世界がどうやって創られるのか」
「世界が…?」
「ああ。…突拍子も無いし、あくまで仮説だと思えよ?」
そう言ってサニーは続けた。
「自分とは異なる所に存在する世界。それを読み取ってしまう奴がいる。
簡単な話、この世界でお前が読んでいる絵本の世界も、実際には別の場所に存在している世界なんだ。
それを無意識に読み取った作家が、絵本にしたわけだ」
「…なるほど」
魔法が存在する世界だ。
前世では魔法が存在する世界だったのか覚えていないが…ありえない話では無いだろう。
「それから、もう1つ。逆に物語として創った世界が、どこか別の場所に創られるって可能性だ。
これも簡単に言うと、絵本作家が作った『物語』が俺らが知らず触れられない場所に新たな世界として創られる。
創造する者の魔力が強ければ、そういう事もあるらしい」
「…?それって、結局この世界がゲームの世界の可能性もあるって事よね?」
私がそう質問すると、サニーは首を横に振った。
「ゲームとして物語を作る。その『物語』を作った時点で、この世界が出来上がる。あくまでゲームを作った奴はある程度の設定を考えただけ。この世界はその後は勝手に機能している…って言えば、分かるか?」
「つまり…この世界が出来上がった時点で、私が知っているゲームとは別物って事ね」
「その通りだ」
サニーは大きく頷いた。
確かに、それなら納得がいく。
今までは何故かそれは、あり得ないと思っていたしゲームの世界で私は生きていると思っていたけど。
精霊王が言うんだし、そうやってこの世界が出来たと言われればそうなのかもしれない。
「だからさ。お前がゲームとしてこの世界を見てきたものは、お前が今生きているこの世界とは別だ。だけど、この世界をモデルにしたゲームなら、何かヒントがあるかもしれないだろ?」
「確かに、そうね」
「ってことで。何かヒントになる事は無いのか?」
明らかにわくわくした様子でそう聞いてくるサニーに思わず私は溜息をついた。
「あったらとっくに伝えてるわよ~…」
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