第54話

「どういう事?サニーが何かしたの?」


「多分、なんだけど…ほら、仮契約で俺の魔力流し込んでるだろ?」

「…あ」


そうか!精霊の魔力を体内に流しているから、それが影響しているのかもしれない!

私が疑問を解決できたと思って顔を上げると、お父様達は茫然としていた。


「ルージュ…?仮契約って…?」

お父様がそう呟くのを見て、私とサニーは顔を見合わせた。

しまった…説明が面倒だ。とお互い思っている事が分かる。


「精霊との仮契約、なんだけど。サニーにしてもらったの」

「えっ!?仮契約って!?大丈夫なんだよな!?」


お父様が慌てた様子を見て、お母様がお父様を手で制した。

そしてキッとお父様を睨みつける。

恐らく、サニーを思っての事だろう。

お父様もそれに気付いたようで、慌ててサニーに謝った。


「サニー!すまない!君の事を疑ってるわけでは決してないんだ!ただ、ルーの体に何か影響が出るのではないかと心配で…悪かった」


だけど、サニーは全く気にしてなかったようで驚いた様子で否定する。


「いや、そりゃ仮契約なんて言葉だけ聞いたら驚くよな。俺達も…その、言わなかった事は悪かった。ただ、本当に害があるものじゃないというか、しなければいけなかったというか…ルージュの…」


「「うっ…」」

サニーが言いかけた事で、私とサニーは同時に苦しみ出す。


恐らく、呪いの事をサニーが言いかけたのだろう。

2年前に私が言おうとした時は、言おうとしても言えないというだけだったが…

今は胸がぎゅうっと締め付けられるような痛みがした。


「ど、どうしたの!?2人とも!?」

お母様が慌てて私を抱き寄せる。

痛みは少ししたら落ち着き、私とサニーはまた顔を見合わせて頷いた。


呪いの事を伝えるのはやっぱりダメだ。


「大丈夫。少し馬車に酔っただけよ」

「あ、ああ俺も…ルージュの酔いに当てられただけだ」


苦し紛れの言い訳をし、お父様達が何か言いかける前に私達はたたみかけた。


「仮契約は、本当に悪いものじゃなくて、むしろ体に良いものだったの!」

「そ、そうそう!ルージュがたまに調だろ?それを仮契約したら少し良くなるかも…と思ってやってみたんだ!」


『体調を崩す』なんてサニーは言ったが、私に呪いが発動した時…

豹変した時の事を言っているというのは全員が理解しただろう。


すると、ハッとしたようにお父様が言った。


「最近、ルージュの態度が少し和らいだのも、もしかして…?」

「あ、ああ。多分俺との仮契約の影響だと思う」


仮契約から約1年、その間も何度も選択死は現れたが仮契約後からは私の態度があからさまに悪いという事は無くなった。

相変わらずメイドを急に追い返したり、ご飯を食べないと駄々をこねたりしていたが、私の態度はそこまでキツくなくなったのだ。


「サニー、ありがとう。ルージュの力になってくれていたんだね。本当に、ありがとう」

お父様はそう言って指にサニーの小さい手を乗せた。


「えっ、お父様…泣いてる?」

私がそう言うと、お父様は慌てて涙を拭く。


「どうも最近はすぐに涙が出てしまってね…」

「ああ。ルージュの泣き虫はラウルスに似たのか」


サニーが茶化すようにそう言って、私は赤くなりながら反論するのだった。


***


「さっきはびっくりしたねぇ」

自室に戻り、私がそう言うとサニーもベッドにダイブする。


「呪いの事を言おうとした時のあの痛み…昔は無かったんだろ?」

「うん。前は言えないってだけだった」

「もしかしたら、呪いが進行してるのかもな…」

「え?」


私が聞き返すと、サニーは『しまった』という顔をして無理に笑顔になった。


「なんてな~はは…は」

「良いわよ、無理しなくて」


私が呆れたようにそう言うと、サニーはポツリと謝る。

「私もそう思ってたもの。痛みは一瞬だけだったけど、これがどんどん酷くなるかもしれない。最悪、死ぬかもしれない。そこまで思ったわ」


私がそう言うと、サニーは溜息を付いた。

「俺も思ったよ。ただ、俺らはあくまで仮契約だ。命は繋がっていないが呪いに対する痛みだけが共有された…って事は死にはしないかもな」


痛みの共有…もしかして。

「ね、ねぇサニー!もしかして、今まで呪いで私が死んだ時って、サニーも痛かったの?」

「え?いや、何もないぞ?意識が途切れて選択死が出ている時間に戻される…って感覚だな」


心配になり聞いたが、大丈夫だったようだ。

私はホッと安心した。


「って事は…人に呪いの事を話そうとすると痛みが出るって事ね。ううん、痛みだけじゃ済まないかも。これからは、呪いの事は話さないようにしましょう」

「異議なし」


そう言って、サニーが寝転んでいる側に私も寝転んだ。

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