第53話

イッシュの誕生日が終わり、あれからまた1年の月日が流れた。

オーウェンとも良い関係を築き直せた為、その後のお兄様や私の誕生会も問題なく過ごすことが出来たのだ。


そして、現在12歳になった私は…魔力を授かる為神殿に来ていた。


「うう…緊張してきた」

「大丈夫だよ!ルーならきっと!僕と同じ火属性かもしれないよ!」


お兄様がそう慰めてくれるが、まさしくその通りなのだ。

ゲームの通りいけば、私は火属性になる。


ただ…魔力はとんでもなく弱かったはずだ。

貴族として威張りちらしていた私は、その事について言われるのを何より嫌がり学園でも陰口を言う人には嫌がらせをしていた。


「じゃあ、ルーちゃん。神殿の中へ付いていく事は禁止されているから…そろそろ、いってらっしゃい」

お母様にそう言われて、私は頷いた。


肩にはサニーを乗せたまま、神殿の入口へと向かう。


「って言うか、サニーは連れても良いのかな?」

私がそうヒソヒソとサニーに言うと、サニーからも小声で返事をされた。


「別に問題ないだろ?こちとら精霊だぞ?魔力については人間よりエキスパートだっての!」

「何でそんなに偉そうなのよ」


おかしくなって笑いながら、1人で長い廊下を歩く。

暫くすると、開けた場所へとたどり着いた。


するとすぐに神官に案内されて、祈りの場所へと導かれる。


「ルージュ=ホルダー様。12歳になりました事、お祝い申し上げます。

ご存知であるかと思いますが、これから魔力を授かれるようお祈りをして頂きます。

魔力を授かるまで、私どももこの場から離れますので、万が一何かあればお呼びください。それでは」


それだけ言うと、準備していた人達が一斉にいなくなった。


「誰もいなくなったな?」

「そうね」

「っていうか、お祈りってどうするんだ?」

「決まりは無いらしいのよね…とにかく魔力が欲しいと祈るんですって」


そう言って、私は跪き祈りを捧げた。


恐らく、魔力は小さく火の属性なんでしょう?

それでも良いんです。どうか私にも、魔力をください。

…万が一、何かあった時に身を守れるように。


そう心で祈り終わった時に、体が熱くなる感覚になった。


「…おい、これって」

サニーの言葉が遠くで聞こえるが、何だか心地良い感覚で私は目を開けられない。


「ルージュ!ルー!!」

暫くすると私の名前を呼ぶ声がして、目を開ける。


「…え?」

いつの間にか私は横になっていて、目を開けると天井と、私を覗き込む家族の顔。


「あれ?私…なんで?寝ちゃったの!?」

そう言って思わず体を起こしたが、フラフラして倒れそうになる。


慌ててお父様が支えてくれた。


「覚えてないかい?祈りの最中、気を失ったんだよ」

「神官様を呼んでくるわね」


お母様はそう言って部屋を出て行った。


暫くして、先程話した神官様がやってきた。

そして私の体調をチェックした後、ホッとしたように言う。


「大きな魔力に当てられただけのようです。数日は熱がこもった感じがするでしょうが、火属性の影響で少し体温が高くなったように感じているだけですので問題ないでしょう」


その言葉に、家族全員がホッとした様子だ。


その後は私だけがあまり状況を把握できていないまま、帰りの馬車に乗り込むのだった。


「あの…私、どうだったんですか?」

「あ、ああ!そうだったね!私達だけ安心して、ルージュに言うのを忘れていたな!」


お父様がそう言って笑った。


「ルー、僕と同じ火属性だったんだよ。それも、魔力がものすごく強いんだって!!今はまだ体になじんで無いからコントロールが大変だろうけど、これから大きくなったらコントロールできるようになるってさ!凄いよ、ルージュ!」


お兄様が早口で、嬉しそうに言う。


「え?私の魔力が強い…?」


「そうよ~!さっすが、私のルーちゃんだわ!今はちょっと熱っぽいかもしれないけど、すぐに良くなるからね」

「暫くは安静にするんだぞ!」


お父様とお母様もそう言って笑う。


「そんなはずない…」

「え?」


私の呟きを聞いたお兄様が、驚いたように聞き返した。


「あ!いや、私にそんな力があるなんて、信じられないなぁって!何かの間違いって事は無いのよね…?」


「ルー、もしかして嬉しくないの?」

心配そうにお兄様が聞いてきた。


「え、いや!嬉しいというか、起きるはずない事が起こって混乱しているというか」


そもそも絶対にゲームの通りだと思っていたから、私は混乱しているのだ。

今の私は変わったし、攻略対象者であるお兄様やイッシュ達とも仲良くやれている。

ゲーム通りいかなくなってもおかしくないはずだ。


そう私がぐるぐると考えていると、肩からふわりとサニーが飛んだ。


「あのさぁ…多分、俺の影響かもしれない」

考え込みながらそう言うサニーを私は不思議に思い見つめる。

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