第52話
「コホン。まぁ…冗談はさておき」
冗談では無かったと思うが、オーウェンがそう言って咳払いをし話を続けた。
「家庭教師は無理でも、学園に通う事は出来るよね?」
「学園?」
イッシュが不思議そうに尋ねた。
私は学園と聞いて、鼓動が早くなるのを感じる。
「聞いた事があるだろう?『ウッドスティック学園』…魔法や剣などに特化した学園さ。実力での入学になるから、どうしても貴族中心ではあるけど…中には平民もいるらしいよ」
ウッドスティック学園…
コイガクで主人公や私達が通う、名門校だ。
「出来たばかりだから、まだ注目はされていないけど…」
オーウェンのその言葉に思わず反応した。
「え?そうなの?」
「うん?そうだよ。でも、私はこれからあの学園は名門校になると思っている。だから、16の歳になれば通うつもりだ」
そうか。まだコイガクの舞台から6年も前なのだ。
この6年の間に、名門と呼ばれるまでになるのだろう。
まぁ名門だろうがそうじゃなかろうが、コイガクの舞台になるのには変わりないし。
そもそも王子が行くと言っている以上、きっと入学者は続出するはずだ。
「ああ。それなら、僕も通うつもりだよ」
ケロリとお兄様が言った。
「そうなの!?お兄様、聞いてないわ!」
私がそう訴えると、お兄様は私の頭をポンポンと叩いた。
「まだ決まった訳じゃないけどね。きっとテストもあるだろうし…それに、僕はまだ魔力を授かってない。魔力が弱ければ学園に通う事自体、出来ないかもしれないしね」
そう言って笑うお兄様。
私達は12歳になると魔力を授かる。
それには属性が付与されていて、神殿で祈りを捧げると授かるというシステムだ。
まだ魔力を持っていない為、お兄様も不安なのだろう。
でも私は大声で言ってやりたかった。
お兄様は、天才と呼ばれるほどの魔法の持ち主になるんだから!
コイガクは珍しくメインヒーローが王子ではなく、王子よりも身分が低いはずの、お兄様なのだ。
だからなのかは分からないが、お兄様はゲームでは一番魔力が強く剣術にも長けていた。
それは我儘な私に代わって色々と教え込まれていたせい…
というか、変な責任感を押し付けられたせいというか。
そのせいで冷徹なキャラだったんだけど。
現在のお兄様を見ると、優しくニコニコと笑っている。
これからもこのまま、お兄様らしく成長して欲しいなと考えていた。
「へぇー!面白そう!俺も剣術はもっともっと鍛えなければいけないし、オーウェンやアレンと一緒に学園に行きたい!」
イッシュはお兄様とオーウェンに付いていく気満々のようだ。
ちなみに、イッシュは何度もうちに通っている時にお兄様との友人関係もお互いに許可している。
「「「ルージュは?」」」
3人にそう聞かれて、私は言葉に詰まってしまった。
本来の私なら、行くと即答していたのだろう。
でも、その学園で私は散々な目に合うのだ。
選択死が無くなるわけじゃない。
もし、学園に通ってる時に変な選択死が出たら?
それで皆に迷惑をかけるかもしれない。
そう思うと、答えが出ない。
「…私は、まだ先の事だから分かんないわ!」
ノリが悪いような気もするが、笑顔でそう言うのが精一杯だった。
「ルーは、ゆっくり決めるといいよ」
お兄様が私の気持ちを察してか、また頭をポンポンと撫でてくれた。
「そ、そう言えば!オーウェンはもう魔力を授かったのよね?」
私は少し泣きそうになったのをオーウェンとイッシュに気付かれないように、話題を変える。
「ああ!そう言えば、見せて無かったね。まだ授かったばかりだし、あんまりうまく出来ないんだけど…」
そう言ってオーウェンは側のテーブルに置かれている水をグラスごと手に取る。
「分かりづらいと思うけど、見ててくれ」
そう言って片手をグラスにかざした。
私達は言われるがままにじっと見る。
すると水の中心部分から、まるでストローで吸われたように細く水が上がってきた。
グラスから水が飛び出しそうな所で、水の勢いはなくなりまたグラスに戻る。
「どうかな?」
オーウェンがそう呟いた所で、私達は一斉にオーウェンに駆け寄った。
「わぁ!!すごいすごい!」
「本当だぜ!すっげぇ!」
「僕も、感動したよ!」
私達が一斉に褒めるのを見て、オーウェンは照れたように笑った。
「ま、まだまだだよ。私も王子として、もっと力をつけないとね」
「さっすが!向上心があるな、オーウェンは!」
「ふふふ。僕も12歳になるのが楽しみだよ」
そうやって笑いあっている姿を見て、私は疑問に思った。
そもそも、魔法と剣の力を身に着けて…どうするんだろう?
コイガクでも勿論魔法や剣については学ぶし、それが攻略対象者への好感度アップにも繋がる。
でも、コイガクにはRPG要素は特に無かったし、考えてみたら誰かと戦うシーンなども無かったのだ。
一体何の為に、私達は力をつけていたのだろう?
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