第51話

そうして少しだけ話した後、先生はその場を立ち去った。

私達から離れた瞬間に色んな人から声をかけられている。


大方、今の話が聞こえた人達だろう。

王子が褒めた教師。

その教師に自分の子供を教えて欲しい…といった所か。


私が先生に同情していると、オーウェンから声がかけられる。


「そう言えば、ルージュ…」

「はい?何でしょう?」

「…敬語」

「あ。ごめんなさい。まだ習った事が抜けなくて」


ふとした時はやっぱりオーウェン相手だと敬語になってしまう。


「慣れるまでは大変そうだな?」

「ふふ。そうね?」

「まぁ、俺の時はすぐに戻ったけどな…?」

「言われてみれば…そうだったわね?」


そう言うと、オーウェンとイッシュがニコニコと笑いあっていた。


「あ、そうだ!それでオーウェン、どうしたの?何か言いかけていたでしょう?」

「ああ。いや…そのね。手紙の返事が無かったものだから。その事を聞きたくて」

「…?手紙?」


心当たりが無くて私がそう聞き返すと、オーウェンも不思議そうに首を傾げた。


「おかしいな…ルージュ宛に手紙を出したんだけど。まだ確認していない?結構前に送ったしもう届いているはずだけど…」


手紙…手紙…

私がそう考え込んでいると、耳元でヒソヒソと声がした。


「おい。あれじゃないのか?呪いの時にサーシャが持ってきてた…」

「あ…あぁぁーー!」

私は思わず声を上げてしまう。


「ル…ルージュ?どうした?」

イッシュが心配そうに顔を覗き込んでくる。

私は慌てて首を横に振った。


「ご、ごめんなさい!大丈夫!えっと、オーウェン…その、手紙なんだけど…」

「うん。私が出した手紙。どう?まだ見てない?」

「えーっと…」


言い訳を考えていると、また耳元でサニーの声がした。


「届いていたけど体調を崩して見れなかった。その後確認するのを忘れてた、で良いんじゃないか?」

(なるほど!)


私は心の中でサニーにお礼を言い、そのままオーウェンに伝える。


「そうか。忘れられていたのは悲しいけど…体調は大丈夫だった?」

「あ、うん。ありがとう、だ、大丈夫よ!」


完全に手紙の存在を忘れていた私は、罪悪感からオーウェンと目を合わせられない。


「え、えっと。手紙の内容を今聞くのは…無粋かしら?」

話を変えたくてそう言うと、オーウェンは恥ずかしそうに目線を逸らした。


「いや…ただ、次はいつ僕の屋敷に遊びに来るのかなと思って」

「え?遊びに行く約束なんてしてたっけ?」


そんな約束はしてなかったはずだ。

私が忘れてる訳でも無い…と思う。


「いや。約束はしてないけど、いつもはルージュが突然来てくれたでしょ?それが無くなったから…。それに、前にルージュがくれた手紙には『また会いたい』って書いてあったのに、なかなか連絡が無かったから心配でね」


そう早口で言うオーウェンに私は圧倒される。

また会いたいなんて書いた覚えは無いのだけど…。


「オーウェン?私、また会いたいって書いたかしら?」

「え…私には会いたくなかったって事かい?」

「い、いやいや!違うわよ!勿論会いたかったわよ!でも、そんな事書いた覚えが無いな~って…ははは」


寂しそうにするオーウェンに慌てて私は言い訳をする。

何だかんだ言ってもまだ子供だもんね。

オーウェンだってきっと、私やイッシュと会いたかったのだろう。


「ん~確かに『また会える日を楽しみにしてる』って書かれていたよ?」

オーウェンがそう笑ったのを見て、私はポカンとしてしまう。

『会いたい』と『会える日を楽しみにしている』は別物だと思っていたが、そうではないのだろうか?


そう考えていると、イッシュが呆れたように溜息をついた。


「それは正確には『会いたい』では無いだろ…全く」

「ん?なんだい、イッシュ?文章でそう書かれていたとしても、ルージュはさっき自分の口で会いたかったって言ったよ?」


言い合う2人を見て、思わず私は笑ってしまった。

どこが笑うポイントなのか分からなかったのだろう2人が、おどおどしながらこちらを見る。


「ごめんなさい。何だか嬉しくて。私、変わったでしょ?だから、当然オーウェンともイッシュとも、関係性が変わると思ったの。もしかしたら、友達じゃいられなくなるかも、って…」


そう言って私は顔を上げる。


「でも、心配しすぎだったわね!」


そう言うと、イッシュもオーウェンも何だか気まずそうな照れたような表情をした。


「ルー!」

「あ、お兄様!」


そんな話をしていると、お父様と挨拶回りを終えたお兄様が駆け寄ってきた。


「オーウェン、久ぶり。イッシュは…まぁいつも会ってるけど」


その言葉にまたオーウェンが反応する。

「良いよなぁ、君たちは。いつも一緒でさ」


オーウェンらしくないセリフに、思わずきゅんとしてしまった。


「オーウェンったら、子供みたい」


そう言って笑うと、オーウェンは恥ずかしそうに言い訳をするように言った。

「ま、まぁ私達はまだ子供だからね」

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