第49話
「大丈夫、大丈夫!ちょっと、私も婚約について考えていただけで…」
慌ててそう言うと、シルビアではなく私の後ろから声が聞こえた。
「へぇ。婚約の何について?」
「…え?」
振り返ると、そこには笑顔で立っているイッシュがいた。
それを見たシルビアは少し焦ったように立ち上がり、イッシュに挨拶をする。
心なしか、少し青ざめている気もする。
「イッシュ!もう、挨拶は良いの?」
私がそう言って駆け寄ると、イッシュは更に笑顔になった。
「ああ、父上が自由にしていいって!」
「そうなんだ。…あ、イッシュ。こちら」
私がシルビアを紹介しようとすると、イッシュは手でそれを制した。
「シルビア嬢の事は知っている。…先程も伝えたが、シルビア嬢。今まで本当に、申し訳なかった」
「い、いえイッシュ様!お顔を上げてくださいませ!私はその…気にしておりませんわ!」
あんなに恨み言を言っていたシルビアが笑顔でそう答えるのを見て、私は少し驚いてしまう。
私のその気持ちを察してか、シルビアが私を見てウインクをした。
思わず笑いそうになるのを堪える。
「それで、その…申し訳ないけど、ルージュと少し話をしたくて」
「あ、ええ!勿論ですわ!ルージュ、また後で」
そう言ってシルビアはニコニコとその場を去った。
「…っは~あ!緊張したぁ~!」
シルビアが去った途端、イッシュはいつもの様子になる。
「もう!誰かが見ているかもしれないわよ!」
私が笑いながらそう言うと、イッシュは言い返せないようでグッと背筋を伸ばした。
「そうだな。はぁ…みんな、こんな堅苦しい事をずっとやってたんだな」
「そうよね…私たちが自由にしすぎたのよ」
「今なら身に染みるぜ…」
「そうね。わかる」
私のその言葉にイッシュはピクリと反応した。
「いーや!お前はまだ分かってないはずだ!」
「え、ええ!?」
「お前が俺の気持ちを分かる時は、ルージュが主役のパーティを経験した後だ」
「う…確かに。今ですら息が詰まるのに…私の誕生日パーティ…はぁ」
肩を落とす私に、イッシュは慰めるようにポンポンと肩を叩いた。
「その時も…俺がいるだろ?兄弟?」
「イッシュ…!」
何だこの茶番はといつもなら流す所だが、パーティの熱気に当てられて何だか私も楽しくなっていたみたいだ。
「まぁでも。冗談抜きで、私のパーティにも来てよね?イッシュがいてくれるだけですっごく心強いんだから!」
「お?そうか…?へへ」
イッシュが照れながらも踏ん反り返る。
そんな話をしている時に、私達の後ろから声が聞こえた。
「…2人とも、随分と楽しそうだね?」
聞き覚えのあるその声に、私とイッシュに一気に緊張が走る。
振り返ると、予想通りそこに立っていたのはオーウェンだった。
私とイッシュはオーウェンの姿を確認すると、同時に
「王子に、イッシュ=コールンがご挨拶申し上げます。私からお声をかけられなかった事、申し訳ございません」
「ルージュ=ホルダーがご挨拶申し上げます。私も、お姿をすぐに確認できず申し訳ありませんでしたわ」
内心、すごくドキドキする。
オーウェンが何か変わった訳では無いが、今までの無礼を思い出すと血の気が引く思いだ。
きっとイッシュも同じだろう。
「驚いたな。2人とも、顔を上げてくれ」
オーウェンのその言葉で私達はホッとして顔を上げた。
久しぶりにオーウェンと顔を見合わせて話す事に緊張していたが、イッシュも同じだったようで私達は目を合わせた。
「…イッシュ」
「ああ」
それだけ言って私達は頷き合った後、オーウェンにお辞儀をする。
そして代表してイッシュがオーウェンに話し始めた。
「オーウェン王子。今まで、数々の無礼を働きました事、申し訳ございませんでした」
「私もイッシュと同じ気持ちですわ。大変無礼な態度で接していた事、申し訳ございませんでした」
イッシュも緊張しているのが分かる。
大きく息を吸うと、意を決したようにイッシュは続けた。
「また、本来であればこのような事を私共のような下の身分から言い出すのも許しがたい事かもしれません。ですが、1つお願いがございます」
「…お願い?」
「はい。今までこの国の王子に無礼な態度を取っていた事は、私共も勉強をして身に染みております。ですが…オーウェン王子の事を大切な友人だと思っていた事は本心でございます」
「…」
イッシュのその言葉に、オーウェンは返事をしない。
緊張が走る中、イッシュは続けた。
「ですので、私もルージュも…今後とも今までと同様にオーウェン王子と友人でいたいと思っております。もしお許し頂けるなら、今までと同様に仲良くして頂けますでしょうか?」
「これは、私も同意見にございます。ですが、今までも無礼を働いてる上、このようなお願いをしてしまいお気を悪くされたのでしたら…断って頂いても構いませんわ。私もイッシュも今後は、王子にご迷惑をかけるような事はしないと誓います」
私がそう付け足す。
そして顔を上げると、オーウェンは少し不満そうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます