第47話

挨拶もそこそこに済ませて、自由に過ごすよう言われた私達は別行動を取る事になった。


お父様はお兄様を連れて、色々な方へ挨拶回り。

お母様は貴族の女性達へ挨拶回り。


「ルージュも一緒にどう?」


と聞かれたが、私はその誘いを断った。

お母様は少し寂しそうだったが…私も挨拶したい人達がいたのだ。

それを伝えると、お母様は嬉しそうに頷いた。


「…ふぅ。緊張するわ」

「大丈夫だよ。…記憶で見ただけだけど、昔のお前とは全然違う。他人の事を一番に考えられるルージュなら、大丈夫だ」


私の耳元でサニーの声が響いた。

その言葉で私は勇気を出せる。


「…あの、こんばんは。ご令嬢方」


私は今日一番、丁寧に挨拶をする。


私と同年代の令嬢達だ。

昨年の私の誕生日…失礼な態度を取ってしまった子達。


話し込んでいる途中でイッシュが来て、私は『ごめんね』の一言を一方的に伝えて去った。

それがいかに失礼だったか。

今の私になら分かるのだ。


挨拶をした後、恐る恐る顔を上げる。

令嬢達は少し困ったような笑顔を向けた。


貴族令嬢と言えど、まだ子供だ。

顔に思いっきり出ている。


「ル、ルージュ様。こんばんは」

「「「こんばんは」」」


「…」


その後に言葉が続かない。

本来であれば、身分が低い者から話題を提供する。

身分が上の者はそれを待たなければならない…はずだ。


(先生が間違ってるはず無いし…)

自分から謝りたいが、またマナーを無視してしまうのもいけないし。


(ど、どうしよう…気まずい…!)

冷や汗が垂れてきて、どうしようかと内心焦っていると令嬢達はヒソヒソと話し込んでいる。


その後、1人の令嬢が恐る恐る口を開いた。

「あ、あの…ルージュ様…?」

「は、はい!な、何かしら?」

思わず声が上ずる。

恥ずかしくなって、顔を赤くしてしまう。


「あ、いえ。その…今日は、お話は…?」

「…?どういう意味でしょうか?」

「その…いつもならルージュ様から色々とお話をしてくれますので…」

「え…」


それって…。

私は今にも膝から崩れ落ちそうな気分だった。


今まで私がマナーなんて無視して、話そうとする令嬢の言葉を遮って自分の話ばかりしていたのだ。

だから、いつものように私の話を待ってたのね…。


「皆様…」

「「「は、はい!」」」


私の声にみんなが固まる。


「今まで本当に…申し訳ありませんでしたわ」

「え…?」


私は深々とお辞儀をした。

「そ、そんな!お顔を上げてください、ルージュ様!」

慌てて駆け寄ってくる令嬢に涙が出そうになるが、グッと堪えた。


ここで泣いたら、目立ってしまって令嬢達に嫌な噂が流れてしまう。


「いえ、謝らせてください。お恥ずかしいですが、今更ながらにマナーも含めて勉強していますの」

私は、今までの非礼の数々を謝り、今はきちんとした令嬢を目指している事。

カリーナ先生から学んでいる事を丁寧に話した。


「ルージュ様、本当に変わられたのですね」

駆け寄ってくれた令嬢が、優しくそう言った。


「ちょ、ちょっと…!」

恐らく、私に失礼だと思ってか他の令嬢達は止めようとしている。


「今のルージュ様なら大丈夫よ!落ち着いて!」

そう言って、私の目の前に立ち直してくれた。


「ルージュ様、実は私達…先程イッシュ様に挨拶した際にルージュ様の事も聞いていましたの」

「え?イッシュに?」

「ええ。そうですわ」


そう言って令嬢は、イッシュから言われた言葉を教えてくれた。


『私とルージュは同じ先生の元で学び直している。

今までの非礼を詫びたいのはルージュも一緒なんだ。

出来れば、今まで同様…いや、今まで以上に仲良くしてほしい』


「そう言って、イッシュ様自身も今までの事を謝ってくださいましたわ」

「そう…だったの」


私が呆けていると、令嬢は私の手を取ってくれた。


「正直に申し上げますと、最初は少しだけ疑っておりましたの。でも、こうやって謝ってくださって…更に素敵になったルージュ様を見たら、疑うのが失礼ですわね」

「シルビアさん…」


私が目の前の令嬢をそう呼ぶと、ポカンと口を開けていた。


「ルージュ様、私の名前を…?」

「え…当然です!失礼な態度ばかりだったとは言え、私は皆様の事をお友達だと思っていましたもの」


慌ててそう言うと、シルビアは嬉しそうに笑った。


「嬉しいですわ!では、今後も仲良くして頂けますか?」

「勿論です!あの…皆様も…」


シルビアの後ろでどうして良いか分からず見守っていた令嬢達にも声をかけた。

あからさまに、パァっと嬉しそうな顔になる。


「嬉しいですわ!ルージュ様!」

「私もです、これからもよろしくお願いします!」


数人が私の周りに集まってくる。

私の耳元で『だから言っただろ?大丈夫だって』と聞こえた。


ふんぞり返るサニーの姿が目に浮かんで、目の前の令嬢達と仲直りできたのも嬉しくて、私は思わず笑ってしまった。

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