第44話
暫くして泣き止んだサニーは少し気まずそうにしていた。
私は勿論茶化す事はせず、すぐに話を戻した。
「じゃあ、話の続きをしようか?」
「ああ、そうだな」
サニーは『よしっ!』と自分の頬を軽くたたいて、気持ちを切り替えているようだった。
「まず仮契約は…俺からのキスで間違いなかったな」
「ええ。そうだったわね」
「それで、効果としては『雰囲気が柔らかくなった』とかかな。まぁこれはまだ分からんけど」
「そうね。今後また呪いが発動した時に注意して確認しましょう」
その言葉にサニーは頷く。
「それでな…契約について話しておきたい」
「あ、12歳になって魔力を持った後の話?」
「うん。それなんだけど…今で伝えておきたいんだ。その…悪いけど、仮契約は問題ないが契約は俺はする気はない」
そう言ってサニーは気まずそうに目線を逸らした。
「そうなんだ」
「そうなんだって、それだけかよ!?」
「だって、私としては仮契約だけでもありがたいもの。正直私がサニーにしてあげられる事って少ないじゃない?それなのにサニーにばかり負担をかけてるのも申し訳ないし…」
私がそう言うと、サニーはポカンと口を開けている。
「じゃあ、そうね…一応理由だけは聞いても良い?」
私がそう聞くと、サニーは頷く。
「仮契約はさ、ルージュが言ってたみたいに友人関係の延長みたいなもんだ。ただ、契約となると話が違う」
「どう違うの?」
「…命が、繋がるんだ」
「ん?どういう事?」
意味が分からず、疑問に思うとサニーは困ったような顔をしながら続けた。
「つまり、俺が死ねばルージュも死ぬし、ルージュが死ねば俺も死ぬ」
「え…」
仮契約が正直契約とも呼べないようなものだったから、契約だって大した事無いんだと思っていた。
「俺達精霊は本来、寿命っていうのは無いんだ。でも契約しちまえば、契約した人間の寿命が尽きて死ぬときに精霊も死ぬ」
「…」
私は言葉を失った。
寿命が無いという感覚はイマイチ分からないにしろ、死が決定してしまうのはきっと恐ろしい事だろう。
「あ、でも。契約って、破棄する事も出来るの?」
「あ?ああ。両者の合意があればな。契約も破棄も、両者の合意の上でだ」
「なら契約して、万が一私が死ぬ事になった時に契約を破棄すれば良い…」
私は言いかけながらサニーを見てハッとした。
普通に考えても、命を預ける契約だ。
いくらサニーが私に対して友好的だとは言え、流石にそんな口約束を信じられる訳がない。
今の私の言葉を否定すれば、私を信頼していないみたいじゃない。
自分で伝えようとした言葉で、サニーを困らせてしまうと思い咄嗟に話題を変えた。
「と、ところで気になったんだけど!契約した場合も仮契約の時と一緒で、お互いが助け合いましょうって契約になるの?」
「あ…いや。契約の場合は、お互いが一番望むものを契約の前に言うんだ。その望みを故意に叶えなかった場合は、ペナルティが与えられるらしい」
「ペナルティって?」
「さぁ…多分だけど、死ぬんじゃないか?」
サニーは考えながらもそう言ったが、私は思わず引いてしまう。
「そ、そんな簡単に…」
「し、仕方ねぇだろ!そこまで詳しく聞いてないんだから!」
「そうよね、ごめんなさい。じゃあそうね、話を戻しましょう」
「お、おう」
私は軽く手をパンッと叩いた。
「今は仮契約についての話よね。サニーはその、えっと…誰から聞いたか知らないけど、その教えてくれた人から仮契約についてどういう内容を聞いたの?」
そう言えばサニーはどうやって情報を仕入れたのだろう。
湖には行ったんだろうけど。
「ああ。それは、話しただろ?精霊王。あいつから聞いた」
「へぇ…精霊王ってだけあって、何でも知ってるのかしらね」
「だてに長く生きてないんだとよ」
口ではそう言っても、精霊王の事を話すときサニーが優しい目をしているのを私は見逃さなかった。
「ふふ。それで?聞いたのはどういう話だったの?」
「あ、そうだったな。俺が聞いたのは、
・呪われた人間と仮契約した場合、その人間の呪いが少しだけ軽減される。
・仮契約は契約と違い、破棄する場合は精霊の意志だけで可能。
・人間が12歳になり魔力を持った後は契約する事は可能だが、そのまま仮契約を続ける事も出来る。
ってだけかな?」
サニーのその言葉を聞いて、私も考えた。
「う~ん…サニーが仮契約を続けてくれる限りは、定期的に仮契約し直す必要は無いって事よね?」
「そうだな。精霊と人間の契約や仮契約で期限切れ…なんてのは無いと思うぞ」
「そっかぁ。良かった!」
正直、何度もサニーの過去を見てしまうのは申し訳無いと思っていた。
それに、あの時の頭痛や眩暈が結構キツかったのよね…。
私がそう考えていると、サニーはちょっとだけ落ち込んでいるように言った。
「そうだよな…何度も思いでを覗かれるのって気分悪いよな…悪かった」
「いや、違うから!私が申し訳なく思ったの!…って、散々お互い謝りあったし、もうこのくだり止めない?」
私がそう笑って言うと、サニーもつられて笑ってくれるのだった。
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