第43話

自室に戻り、早速私達は仮契約の事について話す事にした。


「まず、お前多分俺の記憶で気になる事があるだろ?全部答えてやるよ」

溜息を付きながらサニーがそう言った。


「それなんだけど…サニーは嫌じゃない?私に根掘り葉掘り聞かれるのって…隠したい事もあるでしょう?」

不安になりそう聞くと、サニーは少しだけ悩んだそぶりを見せた。


「どうだろうな。確かに、あまり良いもんじゃないけど…別に隠す事でも無いし」

「でも…」

「まぁ、ルージュにならもう良いかなって思ってるから」

「そうなの?」

「俺も記憶、見ちまったしな」


そう言ってニカッと笑う。

サニーのこの笑顔は温かくて、私は大好きだと思った。


「ふふ。そうね」

「じゃあまずは…そうだな。そもそも、お前は俺の記憶のどれを見たんだ?」


サニーも私の記憶は断片的にしか見れなかったのだろう。

私もそうだった為、その説明から始める事にした。


「えっと…誰かに『サニーは私の子供だ』って言われている場面と、湖の場面…かな」

それだけ言うとサニーは理解したようだった。


「そっか。俺が知られたくない事、ほとんどだな」

そう言ってサニーは笑ったけど、私は申し訳なくて謝ろうとした。

だが、サニーがそれを手で制する。


「良いんだ。さっきも言ったようにルージュには知られても構わない」

そう言って、サニーの事について話してくれた。


***


精霊には生まれた物を豊かにしたがる性質がある。

雨から生まれた者は雨を操り、作物から生まれた者は作物を育たせる。

それは精霊界では常識であり、精霊が誇りを持っている事だった。


そんな中で俺は…

生まれの記憶が無く、何から生まれたのか分からない精霊だった。


そんな俺を皆は気味悪がり、毛嫌いし、仲良くしてくれる精霊は誰もいなかった。

そんな中、唯一話せる相手は精霊王だけだった。

精霊王は俺達とは違って、まるで人間のように大きな体をしている。

そして、皆に分け隔てなく優しく精霊みんなの父のような存在だった。


「また、1人でいるのかい?」

「だって…誰も俺となんて遊んでくれねぇよ」

「またそんな卑屈な事を言って。自分から友達を作る努力をしてごらん?」

「王には分からないんだ!みんなから愛されている王には…」


殆ど八つ当たりだ。

俺のそんな態度にも王は怒る事なく、悲しそうにこちらを見るだけだった。


「生まれが分かればこんなに辛い思いをしなくて済んだだろうに…すまない」

「なんで王が謝るんだよ!大丈夫だよ。きっといつか…思い出すさ」

何故だか申し訳なさそうにしている王に、俺は頑張って笑顔を向ける。


「信じておくれ。君は私の大切な子供だよ」

精霊王はそう言って、俺を真っすぐ見つめた。

分かっている。王は“みんな”の親なんだ。


「でも、俺は…自分が分からない」

俺は思わずそう答え、顔を手で覆った。


それから暫く。湖の側で1人でいる時だった。

急にドンッと背中を押されたのだ。


「なっ!?何するんだよ!?」

振り返ると、そこには複数の精霊が。

いつも俺を遠くから睨みつけている奴や、ヒソヒソと悪口を言っている奴らだ。


「お前、良い気になるなよ!」

「…何の事だよ?」

「王はみんなにお優しいんだ!!」

「はぁ?」


どうやら、俺がいつも精霊王の所に入り浸っているのを良く思っていないらしい。


「精霊王に何を吹き込んでるのか知らないけどなぁ…」

そう言って、俺をキッと睨みつける。


「お前なんて、誰も友達になるわけないだろ!!」

「そーだ!そーだ!産まれも分からない精霊のくせに!」


そう言って、両手を複数人で抑えられる。

「な!?何だ!?離せ!」


そう言うと、目の前の精霊が魔力を溜めているのが分かった。

どうやら俺に当てるつもりらしい。


「湖に沈めても死なないだろ?お前が本当に精霊ならな!」

「やめて…やめてくれよ!」


俺の願いも虚しく、風魔法で湖に叩きつけられる。

その後すぐに大きな岩を上から落とされた。

羽が岩に挟まり身動きが取れないまま、俺は数か月を過ごす事になった。


***


「そこからは、前に話した通りだ。ルージュが助けてくれて、今があるってわけだ」

そう笑いながら話すサニーを、私は抱きしめた。

と言っても、手の平で優しく包む程度にしか出来ないが。


「ルージュ?」

「辛かったね、サニー」


そう言ってサニーの頭を指先で撫でる。


「はぁ?何子ども扱いして…」

「違うよ。子供とか大人とか関係ない。1人は寂しいじゃない。今まで大変だったね。これからはずっと私がいるからね」


「何恥ずかしい事言って…ってあれ?」

サニーは自分でも気づいていないようだったが、ポロポロと涙を流していた。


「もう、1人じゃないよ。私もいるし、お父様もお母様もお兄様もいるもの。もう1人じゃないのよ」

私がそう言うと、サニーは声を上げて泣いた。


私も呪いのせいで、やっぱりどこか孤独に感じていた。

その寂しさを拭ってくれたのはサニーなのだ。

これからは、サニーにも寂しい想いはさせないと改めて誓った。

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