第39話

「怒鳴ってごめんなさい。ありがとう、サニー」

私は改めてサニーにお礼を言う。


「いや、俺も…肝心な事聞いてなくて…」

サニーはバツが悪そうにしていた。


「そうね!じゃあ一緒に考えましょう!方法!」

「おう!そうだな!」


そうして私達は前向きに考える事にしたのだった。



「ねぇ、サニー?思ったんだけど、前に私がベリーを食べてサニーの声が聞こえた事あったじゃない?」

「ああ、あったな」

「あれって、サニーの魔力を取り込んじゃって、そのせいで呪いが酷くなったのよね?」

「うん」

「じゃあ、仮契約も魔力を注いだら酷くなるんじゃない?」

「いや、それは大丈夫らしい」


意外にも、サニーはハッキリとそう答えた。


「そうなの?」

「ああ。あのベリーは契約するつもりなく魔力を注いだのが問題らしい。ちゃんと契約するつもりで魔力を注げば、逆に呪いを抑える事が出来るんだと」


サニーの言葉に私は頷く。


「なるほどね。という事は、『契約するぞ!』って思いながら前みたいに魔力を注いだベリーを食べたら良いのかな?」

「いや…う~ん…何となく、違う気がするんだよなぁ」

「?そうなの?」


サニーはそう言って少し悩んだ様子を見せた後、意を決したように言った。


「一応、『契約しようと思えば、方法は分かるはずだ』とは聞いたんだよ」

「へぇ」

「で、何となく俺の魔力を何かに注いで食べさせるのは違う気がするんだよなぁ…根拠はないけど」


何となく、という理由でもサニーが違うというなら違う気がする。


「じゃあ、何となくでも良いから、『そうかもしれない』と思う方法は思いつく?」

私がそう聞くと、サニーはじっと私の顔を見つめた。


「や、やだ、何よう…照れるじゃない」

わざとらしくそう言ってみたが、サニーはまだじっと私を見ている。


「サ、サニー?」

「何となく、お前の顔…」

「ん?顔?」


「いや、顔じゃないな。頭の周りをウロウロしたくなる?いや、違うなぁ…何だろうな、コレ」

「じゃあちょっとウロウロしてみる?」

「え、お、おう…」


訳も分からないまま私の頭の周りをウロウロ飛ぶサニー。

動けない私も無言で待つしかなかった。


「…」

「…」

「ど、どう?」

「いや、な、何も…」


まぁ、頭の周りをウロウロする契約って何だって話だもんね。


「何か、こんな事させてごめんね?」

「はぁ…疲れた」


そう言って私の頭の上で休憩するサニー。

私は手を頭上に持って行って、サニーを私の手に乗せる。


「大丈夫?」

目の前に手を移動させて、サニーの顔色を伺う。

すると、サニーがまた私の顔をじっと見つめた。


「どうしたの?気分悪い?」

そう聞くと、サニーは黙って私に顔を近づけてきた。


そして、小さな顔を私の鼻先に。


「ちゅっ」

「…え!?」


固まる私をよそに、サニーは何事も無く私の手から離れて目の前を飛んでいた。


「サニー、今の…」

言いかけて、私は少しだけ眩暈めまいを起こした。


「うっ…」

くらくらする頭の中に、誰かの声が響いた。



『君は私の大切な子供だよ』

『でも、俺は…自分が分からない』


『お前なんて、誰も友達になるわけないだろ!!』

『そーだ!そーだ!産まれも分からない精霊のくせに!』


『湖に沈めても死なないだろ?お前が本当に精霊ならな!』

『やめて…やめてくれよ!』



声と共に映像が流れてきた。

どうやら、これは…

「サニーの記憶…?」


気付けば私は涙を流していた。


「くそっ。聞いてねぇぞ、こんなの」

そう悪態をつくサニーを見ると、涙を流していた。


「サニー?どうして泣いてるの?」

「お前こそ」

「私は…多分、サニーの…」


私は言いかけて、黙り込んでしまった。

勝手に人の記憶を覗き込んでしまった罪悪感。

何を言って良いのか分からないでいると、涙を拭いながらサニーが言った。


「俺も、同じだ。多分ルージュの記憶。断片的なもんだけど」

「えっ」

「ルージュも、俺の記憶が流れてきたんだろ?」

「う、うん」


その後、お互いの涙が止まるまで待ち、暫くして2人の声が重なった。


「「ごめん」」


その声に私は目をパチクリさせた。


「え?何でサニーが謝るの?」

すると、サニーも目をパチクリさせている。


「いや、それ俺のセリフだろ。契約したら記憶が共有されるって知らなかったんだ。少しだけとは言え…嫌な気持ちにさせるつもりは無かったんだ。ごめん」


「そんなのは良いわよ!私の記憶なんて大した事ないし…それよりも、サニーが知られたく無かった事を私が知っちゃったんじゃないかって…」


私がそう言うと、サニーが笑い出した。


「あははっ!なんだよ!…もう良いや!俺が知らなかった事は悪かった。でも、記憶を見てしまった事はお互い様だ。それでいいよな?」

「…うん!」


私がそう返事すると、サニーはまじめな顔付きになった。

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