第38話

「そうか。多分だけど、呪いが発動した時にお前の近くにいないと俺の時も止まるんだと思う」

「そ、そうなの?」

「ああ。今は間一髪で入れたが、いつ呪いが発動するか分からない以上、俺もなるべくはルージュといるようにするよ」


こちらを真っすぐに見つめながら、当然のようにサニーはそう言った。


「え?どうして?」

「どうしてって…」

「呪いが発動している間は、一緒にいてくれるの?」

「…そうだな。その…1人でこんなのと戦うの、苦しいだろ?」


そう言いながら目線を逸らすサニー。


「ありがとう、サニー。とっても嬉しいわ!」

私がそうサニーにお礼を言うと、サニーは呆れたように笑った。


「泣くなよ。泣き虫ルージュ」

「な!泣いてないわよ!!」

そう言って私は目元を拭った。


***


「それで?今度はどんな内容だ?」

「あ、そうね…」


サニーのその言葉に、まだ選択死の内容を見ていなかった事を思い出した。

そして、目の前の選択死を見つめる。


『A.私に釣り合うよう、今後は努力しろと伝える』

『B.イッシュの話を終わらせて、授業に戻る』

『C.鼻で笑う』


「えぇ…」

私は言葉に詰まった。


私はイッシュに何か恨みでもあるのだろうか?

また全ての選択死が悪意ある物のように感じる。


「ん~やっぱり今回も、か」

それを見たサニーは頷きながら、浮き出している選択死の周りをぐるぐると回っている。


「なぁ、ルージュ。1つ提案があるんだが…」

暫くしてサニーは何かを決意したように、そう言った。


「提案?」

「ああ。俺との契約の話だ」


いつになく真剣な眼差しでそう言われる。


「契約って…」

「精霊との契約の事だ。それで少しだけ、この呪いがマシになるかもしれない」


私はその言葉に唖然とした。

というより、理解が追い付かないのだ。


「ルージュ?大丈夫か?」

「…ええ、大丈夫。この呪いがマシになるって?どういう事?」


思わず詰め寄るように聞いてしまう。

それでもサニーは丁寧に説明してくれた。


「そのままの意味だ。お前たち人間は、俺たち精霊と契約する事が出来る。ただ、契約が出来るのは魔力を持った人間だけなんだ…つまり」

「12歳以上って事ね」


サニーの言葉に私は大きく頷いた。


「ああ、そうだ。ただ、魔力を持たないお前とは『仮契約』が出来る」

「仮契約?」

「うん。本契約よりは劣るが、お互いに影響を与える事も出来る…らしい」

「?らしい?」

「…俺も、さっき聞いてきたばっかりなんだ」


その言葉で私は今更ながらに気になった。

サニーは一体、湖に何しに行ったんだろう?


「まぁ、とにかく。その話はあとだ!俺と仮契約してくれたらこの呪いが軽くなるらしい。ただ、どう軽くなるのか、本当に軽くなるのか…正直に言うが、俺はそれを知らないんだ」


私は黙ってサニーの話を聞いていた。


「どうする?仮契約…するか?」

サニーは少し緊張したように、そう続けた。


「私としては嬉しい相談だけど…デメリットは無いの?」

「デ、デメリット?」

「そうよ。デメリット。特に、あなたに対しての」

「俺の?」


サニーは意味が分からない、というような顔をしている。


「だって、今の話だけ聞いたら私は呪いが楽になるから良いけど!サニーがその代わりに何か、背負ったりしない?」


不安そうに私が聞くと、やっと理解したようでサニーが笑顔で言った。


「はは!俺の心配かよ!」

「そりゃそうでしょ!」

「それは大丈夫だ!仮契約っていうのは、精霊が気に入った人間を助ける代わりに望むものを貰うってだけのものらしい」


「え!?もし、それが用意できなかったら…?」

「いや、何も起きないけど…」

「え?」


サニーの話によると『仮契約』というのは、お友達の延長のようなものらしい。

精霊は気に入った人間に力を貸す。

人間はその代わりに精霊に喜んで貰えるように、尽くす。

それが叶わなかったとしても精霊が愛想を尽かさない限り、仮契約は続行される。


「何だか、友人関係に似てるわね?」

「友人?」


「お友達よ!お互いが、お互いの為に喜んでもらえるように。たまには喧嘩もするかもしれないけど、お互いが大好きで…そして、主従関係ではなく、対等な関係って所もね!」

「おともだち…」


サニーは少しだけ照れ臭そうに呟く。


「それじゃあ、サニー?お願いできる?」

「…!ああ!もちろん!」


私のその言葉を聞いて、サニーはぐるぐると私の周りをまわった。


「サニー…?どうしたの?」

「いや、仮契約の場合、俺の魔力をルージュに注入するらしいんだけど」

「だけど?」

「どうやるのか、聞いてなかったわ」


・・・・・・・。


「ええ!?」

少し無言になった後、私は思わず声を上げる。


「今までの話は何だったのよ!」

「し、仕方ないだろ!時間が無かったんだ!」


そのサニーの言葉で私はハッとした。

呪いが起きるかもって、早く私の元へ戻ってくれたんだ。

つまり、方法を聞けなかったのも私の為なんだ。

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