第40話

「よし!お互い記憶を見ちまって、聞きたい事も…というか、多分ルージュが俺に聞きたい事もあるだろうけど。…まずは、今の仮契約がどんだけ効果あるかを確認しよう」


そう言って選択死を睨みつけるサニー。

確かに、サニーの記憶の内容は少し悲しいもので、何があったのかは気になった。

決して面白がっている訳じゃない。

友達として、話を聞きたいと思ったのだ。


「そっか、そうよね…これってもう、仮契約が完了したって事なのよね?」

「そうだと思うぞ。俺の魔力がルージュの中に感じるからな」

「そっか…」


私はそう言った後、改めて選択死を見直した。


『A.私に釣り合うよう、今後は努力しろと伝える』

『B.イッシュの話を終わらせて、授業に戻る』

『C.鼻で笑う』


「内容が変わる訳じゃないのね…?」

「そうみたいだな」


暫く悩んで見ていたが、今までとどう変わったのかが分からないままだった。


「サニー、もしかしてどれが死ぬ選択なのか分かったりする?」

「いや、そういう能力は別についてないな。というより、俺自身は何も変わらないぞ?」

「私もよ。やっぱりそう上手くいかないわよね…」


私にも、サニーにも特に変わった事は感じられない。

なら、やっぱり選ぶしかないのだ。


「本当ならBを選びたいんだけど…」

「?選べばいいじゃないか」


何も考えずそう言うサニーに、私は人差し指を立てて『チッチッチ』とわざとらしく指を振った。


「分かって無いわね、サニーくんは」

「えぇ…」

「Bが死ぬ可能性もあるって事よ!!」


私がそう言ってやるも、サニーは呆れたように溜息をついた。


「いや、そうだけど…分かんねぇじゃん。別にルージュがそれで良いなら良いけど…AかCを選んで死ななかったとしてさ?


『もしかして、Bも死ななかったんじゃない?ならBを選んでみれば良かった』


って思わないと言い切れるか?後悔しないか?死ぬのが嫌なのは分かる。死んだことが無いから想像は出来んが、めちゃくちゃ痛いんだろうし、絶望的なんだろうなきっと。


でも、お前の性格からしてAかCで生き残ったとしてもイッシュを傷付けた事に後悔するだろ?どうせ。なら俺はBを選んだ方がいいと思うけど、まぁ死ぬのは怖いだろうし最終的に決めるのはルージュだし」


早口でそう言うサニーにぐうの音も出ず、私は無言でBを押した。


「いや、急に決断早いな!」

サニーはそう叫んでたけど、私がBを押すと同時にポンッと小鳥の姿に変わり私の肩に乗った。


そして、私の手足から自由が消える。


(あーあ。この感覚、いつまで経っても慣れないわ)

(ルージュ…?)


私が心の中で文句を言っていると、サニーの声が聞こえた。


(えっ!?サニー!?)

(ああ、ルージュの声が聞こえる。多分、仮契約で呪いの発動中はお互いの声が聞こえるようになったのかも…)

(わ~!嬉しい!私が悪さをする間1人で耐えるしかなくて、本当に辛かったの!)

(いや、何をのんきに…あ、おい!ルージュが席に着いたぞ!)


先程まで和やかにイッシュと笑いあっていたはずなのに、急に私はストンと席に着いた。


「?ルージュ?」

不思議そうにこっちを見るイッシュに、ルージュは振り返った。


(うわぁ!きっと冷たい顔でまた酷い事を言うんだわ!Bがマシかも何て誰が言ったのよ!)

(お前だろうが!)


サニーの突っ込みを無視し、内心ドキドキしながら待つ。


「さ、もう話も切り上げて良いでしょう?早く授業に戻りましょう?」


(え?嘘…)


感覚で分かる。私は今、微笑んでいる。


「お、おう!そうだな!早速ヤル気だな、ルージュ!」

「当然よ。…では、先生。お願いできますか?」

「…そうですわね。では、早速授業を始めましょう」


いつものように冷たい態度では無いはずだが、先生は少し疑っている様子を見せた。

でも、すぐに笑顔で授業に戻る。


(どういう事かしら…?)

私がそう呟くと、サニーから声が返ってくる。


(多分だけど…内容は変えられないが、ルージュの態度が良くなったって事じゃないか?)

(サニーもやっぱり、そう思う?)

(今までと明らかに違うんだろ?)

(うん。いつもならイッシュを睨みつけて暴言の一つや二つは吐いていると思うし…)


これが本当に仮契約の結果なのかはまだ分からないが、私は嬉しくなった。


(もしこれが本当なら、今後みんなに冷たい態度で接する事は無くなるかもしれない!)

(そうだな)

(何てことなの!踊り出したい気分だわ!サニー、私の代わりに踊ってよ!)


冗談で私がそう言うと、サニーから困ったような声色で返事がきた。


(いや…俺もな、動けないんだ)

(え?)

(お前が呪い発動してる間、どうやら俺もお前の肩から離れられないらしい)

(そうなの!?)


どうしよう。私のせいだ。

私が仮契約なんてさせたから、サニーにもこの辛い現状を味わわせてしまっている。


「…ごめんね、サニー」

気付くと声に出ていたようで、部屋がシンと静まり返った。

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