第34話

それから数日が経過していたが、私は約束通りサニーに美味しい食べ物をいっぱいあげていた。


「いや~幸せだぜ。ルージュ、お前いつもこんな美味しいもの食ってたんだな~」

何故か小鳥姿のまま、サニーはビスケットを頬張っている。


「良いでしょ?でも、これからはサニーにも好きなだけあげるね」

「おう!」

そんな話をしていると、部屋にノックの音が響いた。


返事をすると、メイドが入ってきた。

「失礼いたします。お嬢様」

そう言ったメイドの顔を見ると、サーシャだった。


「サーシャ!もう大丈夫なの?」

私がそう聞くと、サーシャは頬を見せつけながら笑った。

「お医者様から貰った薬のおかげです!もう傷跡も無いでしょう?」

「本当…本当に良かったわ」

私はそう言いながら頬を触る。


「もう、痛くない?」

「ええ、大丈夫ですよ…って、お嬢様!?小鳥にビスケットを与えているのですか!?」

サーシャはサニーを見て大声を上げた。

サニーもサーシャの声に驚き固まっている。


「あ、あのこれは!」

「失礼ですがお嬢様。小鳥に人間の食べ物は良くないかと…」

「違うの!サニーは特別みたいでね?何だか人間の食べ物を好んで食べるみたいなのよ!何でかしらね!あはは」

言い訳が思いつかず、結局そう言うしかなかった。

だが、サーシャの反応は意外なものだった。


「へぇ。そうなんですか!もしかして、まれにいるという魔力持ちの動物なのかもしれませんね」

「え?そんなのがいるの?」

「噂程度ですが…たまに魔力を持って生まれた動物は、人間の言葉を理解したり軍事力として使えるぐらいに強い者もいると聞きますよ」

そう言いながらサニーの頬を指先で撫でた。


「もしかしたら、人間のご飯を食べて、人間の言葉を理解できる小鳥なのかもしれませんね」

サニーはくすぐったそうにしながらも耐えている。


「サーシャ、詳しいのね」

「あ、いえ!本当に誰かが話したのを聞いた事がある、ぐらいの噂程度のお話ですよ!」

慌ててサーシャは否定する。


「あっ!申し訳ございません、そんな話をしに来たのではなく…本日は授業がある日ですので準備をと思い来たのでした!」

そのサーシャの言葉に私も慌てる。

「そうだった!忘れてたわ。少し早いけど、支度を手伝ってくれる?」

「勿論でございます」

そして私は慌てて準備をするのだった。


準備が終わりサーシャが出て行った時、サニーが口を開いた。


「なぁ、ちょっとだけ外に出ても良いか?」

「うん?どこかへ行くの?」

「ああ、ちょっと湖に…またこっちに戻ってくるけどな!」

サニーはそう言って窓から飛び立っていった。


授業が始まるまでまだ少し時間があったため、1人本を読んでいるとまた部屋がノックされた。


「お、お嬢様。失礼いたします」

「あら?サーシャ?もう先生が来たの?」

私がそう言うと、サーシャは困ったように言った。


「いえ、その…お嬢様は本日授業だと何度も申し上げたのですが…」

そう言うと、サーシャを押しのけて入ってきた男の子。


「よう!久しぶりだな、ルージュ!」

「イッシュ!?」

そう、あの攻略対象の1人でもあり私の幼馴染のイッシュだった。

驚いていると、イッシュの隣で尻もちをついているサーシャが目に入った。


「最近お前から遊びに来てくれないから俺が」

「サーシャ!大丈夫!?」

イッシュの話を遮り、サーシャに手を差し出す。


「お嬢様、そんなにしゃがみこんではいけません!私は大丈夫ですので!」

サーシャが慌てた様子で、チラリとイッシュを見た。


あ、そうか。

三大貴族の前でこんな事されたらイッシュが怖いわよね。

考えなしに助けに入ったことを少し後悔した時、それを悟ったかのようにサーシャが私の手を取って立ち上がった。

「でも、ありがとうございます!お嬢様」


今、サーシャはイッシュよりも私を優先したのだ。

私は嬉しくなった。

「サーシャ…ごめんなさい。時間までイッシュ様と過ごすから、先生が来たら呼びに来てくれる?下がって結構よ」

「はい、かしこまりました」

サーシャも少し嬉しそうに部屋を出て行った。


「それで?イッシュ様、あなた…」

「おう!最近お前から遊びに来なかったろ?だから俺が遊びに来てやったぜ!」

そう言って悪びれもせず笑うイッシュ。


少しイラッとしたが、少し前まで私だってこうだったんだ。

あまり他人をとやかく言える立場じゃない。


「はぁ…。私達はまだ幼いから分からない事も多いと思いますが、友人の家に遊びに行くときは事前に連絡するのがマナーですのよ?大人たちだって準備があるの」

私が溜息交じりにそう言うと、イッシュはムッとした表情になった。


「何だよ!お前だっていつも急に来てたじゃないか!」

「ぐっ…!」

確かにそうなのだ。

全く同じことを私は何度も…頭が痛くなる話だ。


「その節は、誠に申し訳ございませんでしたわ。イッシュ様」

そう言って私はペコリとお辞儀をする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る