第33話

俺は湖の中で身動きが取れないまま、考えていた。

湖に潜った時、上から岩を落とされて羽が挟まってしまったのだ。


(どうやったら助かるんだろうな…)


「誰か…助けてくれ…」

気付けば、落ちてから2度程季節が変わっていた。


そんなある日、水面を見上げると木の実がいくつか落ちているのが見えた。

恐らく風が吹いて、近くの木の実が落ちてきたんだろう。

俺は木の実に向かって手を伸ばした。


「誰か…助けてくれ…お願い…」

木の実にその想いを伝える。

こんな浮いている木の実に願うなんて、俺は馬鹿だ。

自嘲気味に笑った時、誰かがその木の実を回収していった。


「にんげん…か?」

人間という種族がいる。

俺ら精霊を利用しようとする悪い奴。

俺は思わず息を潜めた。


それから暫くして、妙な感覚が起こった。

「何だ…?誰かと繋がった…?」

何故だか、俺の声が誰かに届く気がしてならない。

一か八かだ。


「…お願い、助けてくれ」

俺はなるべく素直に、可哀そうな精霊だと主張するように言う。

「湖の中で、動けないの!助けて!」

そう言った後、繋がっているような感覚が切れた。

俺の声は届いただろうか?…でも、誰に?


その後、数日が経過しても誰も助けには来てくれなかった。

あの感覚は気のせいだったのか…もしくは、声の主が俺だと知っている者に繋がったせいで助けてくれないか。

そう思っていた矢先、またあの感覚だ。

分かる。俺は誰かに今声を届ける事が出来る!

今度はめいいっぱいの声で叫んだ。


「助けて!声が聞こえているでしょう!?」

その後はまたすぐに感覚が切れる。


この時、この行為に意味があったか分からなかったが、後程正しかったと証明された。

何と、俺の声を聞いた奴が湖に潜ってきたのだ。


それが、ルージュだった。


***


「前にも言ってたけど…あの声がサニーだったって事よね?」

サニーの話を一通り聞いて、私は聞く。


「な、何だよ。悪いか」

「だって、あの時はもっとしおらしいというか…可愛い声だったって言うか…」

私がそう言うとサニーは照れながら怒る。


「だーもう!うるさいな!あの時はそうする方が助けてくれると思ったんだ!それに…長い間出られなかったせいで、その…もう良いだろ!」

「はいはい分かったわよ。それで?どうして私の呪いが酷くなったのが、サニーのせいになるの?」

「それは…」

また言いづらそうに口ごもる。


「サニー、怒らないから。話してくれる?」

私がそう優しく話しかけると、サニーは観念したように言った。


「その…呪われている者に精霊が魔力を流すと、呪いの進行は早くなるらしいんだ」

「魔力?」

「ああ。俺は無意識だったけどベリーに魔力を流して、それをルージュが食べた。だから、ルージュは俺の魔力を取り込んだことになってるんだと思う…」


なるほど。言われてみれば、ベリーを食べた後から1日に2回選択死が出たり、内容が酷くなった気がする。

私が冷静に考え込んでいると、サニーは気まずそうに窓辺に立った。


「悪かったな。魔力を流さなければ大丈夫だとは思ったけど、俺が近くにいると嫌だろ?やっぱり俺、湖に戻るよ…」

明らかに落ち込んだ様子のサニー。

私は今にも飛び立とうとするサニーを慌てて窓辺から取り上げた。


「待って待って!私は怒ってないわよ!それに、サニーもわざとやったわけじゃないんだし…そんなに自分を責めないで?」

「何でそんなに心が広いんだ?わざとじゃないにしても、お前の今の状況は俺のせいだろ?」

「サニーのせいじゃないわよ!呪いのせいでしょ!?」

私がそう強く言うと、サニーは目をパチクリさせた。


「俺を嫌にならないのか?」

「せっかく友達になれたのに、どうしてそんなすぐに嫌いになるのよ!」

「でも…」

「それにね、サニー。さっきも言ったけど、私はサニーがいてくれて嬉しいの」

そう言いながらサニーをまた窓辺に降ろした。


「サニーが本当に帰りたくなった時、私は止めないわ。でも、そうじゃなければここにいて?ほら、私ワガママだから、1人で呪いと戦う勇気がもう無くなっちゃったの」

そう言うと、少し泣きそうな顔をしながらサニーが見上げた。


「それに、まだビスケットも美味しいご飯もデザートも食べて無いわよ?良いの?」

そう言うと、ハッとしたように首を横に振る。


「だ、ダメだ!まだ美味しいの、食べる!」

「ふふ。そうでしょう?だから、よかったら私の呪いを解くのを手伝って?」

その言葉を聞いて、サニーはニッと笑った。


「お前、こんなヤバい呪いを解くつもりなのか?」

「ええ。勿論。サニーがいれば、出来ると思うの!」

「はぁ~仕方ねぇな!俺にも少し責任はあるし、手伝ってやるよ!」

そう言ったサニーの顔は晴れやかだった。

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