第32話
部屋に戻ると、今まで小鳥のまま大人しく肩に乗っていたサニーが元の姿に戻った。
「なぁ、ルージュ。…ちょっと、話をしよう」
「話?呪いについての?」
「そうだ」
サニーはあれから何かを考えこんでいるようだった。
「あの呪いだけど…俺が記憶している中でも上位の呪いだ」
「そんな事言ってたわね。でもどうして上位だって分かるの?精霊の力?」
「まぁそれもあるが…そもそも呪いってのは、本来もっと簡単な事なんだ。相手を転ばせるだとか、料理が下手になるとか…そんなのだ」
「え。それだけ?」
私は少しあっけにとられた。
それは呪いというよりも、単にその人自身の問題では?と思ってしまう。
「本来なら、な。ただ…ものすごい恨みの感情と莫大な魔力をもってすれば、相手を不幸体質にしたりする事が出来る。その最上級が、相手を呪い殺す事だ」
サニーの言葉にゾッとする。
「って事は…私をものすごく恨んでいる人がいて、その人が私を呪ったって事?」
「その考えで間違いないだろうな」
「何で…そこまで恨まれるなんて…」
そう言いながら、私はハッとした。
「でも、そうよ。私はこの呪いが出るまで、好き勝手してきたわ。気持ちを改めてまともになったのって、ここ最近だもの」
「そうなのか?」
自分で言いながらガタガタと震える。
「メイドには笑われ、執事には怒られ…そうだわ!他の同年代の子達にだってパーティの時に散々無礼を…!」
「待て待て、落ち着け。同年代って…お前と同じ歳だろ?ならまだ魔力は無いはずだ」
「あ、そうか」
この世界で魔力が与えられるのは12歳になってからだ。
12歳に神殿へ行き、属性が付いた魔力を与えられる。
私とお兄様は確か…火の属性だったはず。
だが、ゲームではたいして出てこなかったはずだ。
話に触れるぐらいで、そこまで重要だとは思っていなかった。
なのに…この選択死の正体が呪いで、しかも魔力ある人間がかけていたなんて。
「は!なら、メイドの誰かかしら…私ったら本当にワガママ三昧で…」
「う~ん…俺もすれ違った使用人しか分からなかったが、それは無いと思うぞ?」
「え?どうしてよ?」
「人間のオーラみたいなものが見えるってのは言ったと思うが…それが何て言うのかな…その人に対して敵意を持ってるかどうか?みたいなのが見えるんだよ」
「何だか曖昧な言い方ね」
私が少し呆れてそう言うと、サニーはムッとして答えた。
「仕方ねぇだろ!実際に人間を見るのは初めてなんだよ!」
「え、そうなの!?」
「まぁそれは良いとして…あのさっきのメイドもそうだが、お前とすれ違った使用人達を見てもお前に対して敵意は無かったし、むしろ…」
「むしろ?」
「愛情がすごく感じられたな」
「え、嘘!?」
「本当」
あれだけ好き放題してきて、私の事を好きになってくれるものかしら?
サニーの見間違いなんじゃ…
「ま、すれ違った奴だけだからな。もしかしたら他にお前にとんでもない恨みを抱えた奴がいるかもしれないし」
「う…否定できない」
「まぁ、見つけたら教えてやるよ」
「サニー…本当にありがとう!!」
私は目を潤ませながらサニーを抱きしめる。
と言っても、実際には抱きしめるというより手の平でギューッと押しつぶす形になってしまったのだが。
「ぐぇ!やめろ!苦しい!」
「あ、ごめんなさい」
私がそう言って手を離すと、サニーはわざとらしく溜息をついた。
「にしても、お前って泣き虫だよな」
「え?」
「しょっちゅう泣くじゃん。すぐ泣く。だっせぇ」
「な!なによ!まだ子供だし、色々あったのよ!仕方ないじゃない!」
「はいはい。泣き虫ルージュ」
「もう!!」
そう言ってからかってくる姿を見て、何だかサニーも楽しそうだと感じた。
「でも、どうしてそこまで良くしてくれるの…?」
「何が?」
「だって…そもそも、私達出会ったばかりじゃない?私はサニーにまだ何もしてあげられてないのに、サニーにはたくさん支えて貰っちゃって…」
「いや、俺も何もしてねぇけど?」
「ううん!呪いの事が話せるだけでも嬉しいの!それに、あの画面…えっと、選択死が出てきた時にも一緒に相談できる相手がいるって凄く嬉しいのよ!」
私がそう言って笑うと、サニーは恥ずかしいのか、また顔を背けた。
「いや、俺だって湖から助けてもらったし…それにさ」
「それに?」
「お前多分、最近になって呪いが酷くなっただろ?」
「え?言われてみれば、そうかも…」
サニーに言われて考えてみる。
確かに、呪いの出る頻度も早くなったようだし、何より内容が物騒になった気がする。
すると、サニーは更にバツが悪そうにして、続けた。
「それな、多分…俺のせいだわ」
「…は?」
「いや~俺もこんな事になるなんて、な?ははは…」
そう言って笑うサニーだったが、私は笑えずに真顔のままだった。
「詳しく」
「はい」
そしてサニーは、話し始めたのだった。
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