第30話

ハッと目を覚ますと、目の前にサニーがいた。


「うわっ!サニー…?」

思わず驚いた私をよそに、サニーは深刻そうな顔をしていた。


「ど、どうしたの?」

「ルージュ…お前」

「う、うん」

「こんなに酷い呪いを受けていたのか?」

「…えっ?」


サニーは心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「正直、俺も呪いについて詳しい訳じゃないけど…この呪いが上位の呪いだって事は分かる」

「そ、そうなの?」

「ああ…多分、だけど」

何かを言いかけたサニーはそこで言葉を止めた。


「サニー?どうしたの?」

「いや。…悪かった。怖かったよな。今は少し心を落ち着かせろ」

そう言って顔を背けながらも、私の手に手を重ねた。


小さな手が、とても温かく感じる。

私はそこで自分の手が震えている事に気付いた。


「あ、ああ…そうね。怖かったのは事実だけど、大丈夫よ。痛みとかはもう無いの。悪夢を見ていた気分というか」

「そうか。痛みは無いのか。でも…いや、お前が良いなら良いんだ」


そう言ってサニーは手を離した。

私の手の震えは収まっていた。


「…ありがとう、サニー」

「いや、俺は何も」

「それで?さっき言いかけた事は?」

私がそう問いかけると、少し疲れたような表情をしている。


「…悪い。何となく、この状態が居心地悪いんだ。一旦この選択肢を消してから、話をしないか?」

「え、ええ。良いわよ」

「…悪いな。また選択するのも…その…また死ぬかもと思うと、心が折れるだろ」

サニーが何だか優しい気がする。

まだ出会って間もないが、何となくそう感じた。


「ああ、それは大丈夫よ。サニー、このドクロマークが見える?」

「あ?ああ。何か付いてるな」

先程選んだAの選択肢の横にドクロマークが付いていた。


「これが付くのは選択肢の中で1つだけなの。つまり、これだけが選択死って事なのよ」

「ふーん。って事は、他の選択では死なないって事か?」

「そういう事!だから次はどれを選んでも大丈夫なのよ!」

「で?どれを選ぶんだ?」

自信満々に言った私だったが、サニーの言葉でまた落ち込む。


「ど、どうしたんだよ」

「だって…見てよ、BとCの選択肢」

「いや、見てるけど…」


『B.手紙なんて要らないと、メイドを叱りつける』

『C.ナイフを取って、メイドに投げつける』


私はまた大きく溜息をついた。

「Cは絶対嫌だけど…Bだって酷いものでしょう?」

サニーは私の言葉に頷いた。


「確かに。何で手紙がいらないからって叱る必要が…?」

「そう!そこなのよ!この選択死の嫌な所はね、私が急にキレたり暴れたりする所よ!」

そう言うと、サニーは何かを考え込んでいるようだった。

声をかけても、ずっとブツブツと言っている。


「まぁ良いわ。B以外の選択は無いんだし。押すわね」

そう言って私はBを押した。



私の意志とは関係なく、私がメイドに向かって歩き始めた。


「どうぞ、お嬢様」

そう言って手紙とナイフが置かれたトレーを差し出す。

「…らない」

「お嬢様?」


私の様子がおかしい事に気付いたのか、メイドが顔を覗き込んでくる。


「いらないって言ったの!聞こえなかったの!?」

「も、申し訳ございません!お嬢様」

慌てたように謝罪するメイド。

だけど、すぐには出て行こうとしない。


「お、お嬢様。ではこの手紙はどういたしましょう?」

「うるっさいわね!いらないって言ったのが聞こえなかったの?早く捨てなさい」

「え?で、でも…」

「は?何あんた。私に口答えする気なの?」


そう言った私の顔は酷く冷酷で、メイドも怯えているようだった。


「で、ですがお嬢様!」

メイドはそれでも何かを言いたそうにしている。

「また口答え?何よ、何なのよ。私を馬鹿にしてるの?ふざけんな!」

私はそう言って机にあった本を投げつけた。


(待って!メイドが怪我しちゃう!お願いだから、やめて!!)

そう思っても私の手は止まらない。


「早く!出て行きなさいよ!」

そう言いながら机にあった本を全て投げつけた。


そして、最後に投げた本の角が…メイドの顔に当たった。

(…!?)


倒れたメイドが起き上がると、頬は腫れ上がり紙で切ったようで血も出ている。

(いや…やめてよ…)

今すぐ駆け寄って、誰かを呼んで…治療してもらって…

そうしなきゃと思っても、体は動かない。

でも、今の私も何も言わずに動かないままだった。


「し、失礼いたします。お嬢様」

それだけ言って、メイドは慌てて出て行った。


メイドが部屋から出て行った瞬間、私は膝から崩れ落ちた。

「ル、ルージュ!?」

サニーが慌てて私の膝の上に飛んできた。


「サニー。私…怪我、させちゃった…」

そう言った私の頬に涙がつたう。

「こんな事…今まで…」

酷い事を言って傷付けた事はあったと思う。

それでも、誰かに怪我を負わせるなんてそんな事、今まで…。


私がそう考えていると、サニーの声が届いた。

「おい!ルージュってば!」

「はっ…あ、ご、ごめんなさい」

「…とりあえず、さっきのメイドには謝りに行った方が良いんじゃないか?」


サニーのその言葉に私はハッとした。

そうだ。今までと違って、今はメイドが出て行ってそんなに経っていない。

まだ追い付くはずだ。


私はそう考えると同時に、部屋を飛び出した。

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