第27話
「この選択、あって無いようなものじゃないか?」
「え?そう?」
「…マリアとルージュのどちらか、だな」
そう言ってやれやれと頭を振った。
「ええ!?どうしてですか精霊様!?」
お父様が信じられない、というような顔でこちらを見ている。
「いや、どう考えたって…ベニドリって…俺が赤い鳥だからってそのまますぎだろ」
そう言われてガックリとうなだれている。
「同じ理由で、アレンのもダメだ」
お父様を見て笑っていたお兄様だったが、そう言われた途端に固まった。
「なら、ルーちゃんが決めたサニーにしましょう」
お母様は腕を組みながらうんうんと頷いた。
「え?良いの?」
「考えてみたんだけど、ルージュとルビーって少し似てるじゃない?どっちもルーちゃんなんて分かりづらいもの」
というお母様の意見で、精霊の名前は『サニー』に決まった。
「ふふ。改めてよろしくね、サニー」
私がそう言うと、サニーは照れたように笑った。
「そ、それから。ラウルスもアレンも、俺に対して敬語じゃなくて良いぞ」
「ええ!?ですが…」
「良いから!鳥に向かって敬語で話すなんて不自然だろ!」
「そ、そうか…分かった。改めてよろしく、サニー」
「僕も、よろしくね。サニー」
お兄様とお父様がそう言うと、また照れくさそうに顔を背けた。
その後の話し合いで、サニーは基本的には私といるという事になった。
私が小鳥を飼うという名目だからだ。
ただ、それはサニーの自由を縛るという意味ではない為、好きな時に好きな場所に行って良いと伝えていた。
そして、家族全員が私の部屋から出て行った後。
「さて、ルージュ」
「ん?どうしたの?サニー」
私はニコニコとサニーの言葉を待った。
だが、次にサニーから放たれた言葉は衝撃的なものだった。
「お前、呪われているな?」
***
ーアレンsideー
「今日は落ち着いていて、良かった」
ルーの部屋を出た後、お父様がそう呟いた。
ルージュが湖に落ちたり…と思ったら精霊様と出会えたり今日は忙しかったけど、お父様が真っ先に思う事はやっぱりルーの事だった。
「本当ね。一番戸惑っているのは本人なんだから、私たちがしっかりしないと」
お母様も満足そうに、幸せそうに微笑んでいる。
ここ最近、ルージュの言動や行動がおかしい事が何度かあった。
僕も、いつものルーじゃないと感じた。
昨日もまた別人のようになったルーを見て、お父様もお母様も困惑しながらも『何か理由があるはず』とお医者様に話を聞いてみたのだった。
僕もその場に同席していたが、お医者様との会話はこうだった。
「ううむ。本人を見てみないと何とも言えませんが、たまにそういった子供がいるのは事実でしてね。突然怒り出したり泣いたり、
優しそうなお医者様はそう言って、続ける。
「貴族や平民など、あまり身分に関係なく起こりうる事ではありますのでその可能性が高いかと」
「そうか…本人が一番戸惑っているだろうな」
「そうですね。旦那様、奥様、アレン様。皆様が寄り添って支えてあげる事が一番の治療になります。身も心も大人になっていけるよう、支えてあげてください」
お医者様はそう言うが、僕は何となく不安が拭いきれなかった。
「あ、あの…」
「はい?アレン様、どうされましたか?」
「大人になるまで、これが続くって事はないのでしょうか?…ルーは、治りますか?」
僕がした質問に目をパチクリさせた後、お医者様は笑った。
「大丈夫ですよ。心配なのは分かりますが、これは成長する上で必要な事とも言えます。そして心も成長した時には、おさまる事でしょう」
「もし、大人になってもそういう人がいたら?」
僕の質問にお医者様は少し困ったような顔をした。
「そうですねぇ…こう言ってはなんですが。ハッキリ申し上げると、そのような大人はただの『我儘』ですね。普通なら善悪の区別や、周りへの態度など成長するに連れて分かっていくものですから。その判断が大人になっても出来ない、というのは単なる我儘でしょう」
そういうお医者様は少し気まずそうだった。
「まぁ、今まで見てきた子供たちでも15歳では遅くても治っていますので。そこまで心配する必要は無いのではないでしょうか?」
その言葉にお父様もお母様も、納得し安心していた。
でも僕は…。
この前も、昨日も。
僕の目の前にルージュは座っていた。
そしてあの、人が変わったようになる時、ルージュの目はどこを見ているのか分からない目をしていた。
人が変わったように…では無く、本当に別人に。
ルーの意志では動かせない、別の人格が動いているような感覚。
僕はそういう風に感じてしまっていた。
お父様もお母様も、見ていたとは思うけど…。
チラリと両親に目をやるが、お医者様の言葉を聞いて心底安心したかのようだった。
あまり不安にさせるような事は言うべきではないな。
僕の考えすぎだと良い。それが一番だ。
大人になるころにはルージュは立派なレディになっているはず。
そして僕はそれを兄として隣で支えたい。
少し不安を感じつつ、昨日はルーにそれを伝えた。
本人の安心したような顔を見て、僕は絶対にルーを支えていくと誓ったのだった。
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