第26話
帰りの馬車では精霊への質問攻めだった。
「いつもどんな事をして遊んでいるの?」
「いや。まぁ水遊びとか、花を摘んだりとか…色々」
「へぇ!精霊様はいつからこの地に?」
「随分昔の事だから…忘れた」
「そうなのね!今後、もししたい事や欲しい者があれば遠慮なくママ達に言ってね!もう精霊さんは私達の家族ですもの!」
「家族…」
「あ、そうだわ。私ったら重要な事を忘れてた。私はルージュ。お兄様がアレンで、お母様がマリア。お父様はさっき伝えた通り、ラウルスよ」
「おう」
「それで、あなたは?」
「何が?」
「だから、名前よ!名前!」
そう私が言うと、精霊は溜息を付いた。
「精霊は自分の名前を人間に明かさないんだ。明かすのは契約する相手だけ。だから、俺の事は好きに呼ぶと良い」
「という事は…」
私はバッと家族を見た。
みんな、目をキラキラさせている。
「名前を決めるってことだね!僕も考えるよ!」
「いやいや、ここはパパが考えようじゃないか!なんて言ったって、アレンもルージュもパパが考えたんだぞ!素敵な名前を考えようじゃないか」
「あら、あなた?アレンもルージュも考えたのは私だったと記憶していますけど?」
そう一斉に話す姿を見て、また精霊は面食らっている様子だった。
「お前ら…変な奴らだなぁ」
そう言って少しだけ笑った。
「笑った!」
私が思わずそう言うと、精霊は慌てたようにそっぽを向いた。
「笑ってない!」
そう言っても顔が真っ赤だ。私達は笑いあった。
そろそろ家に到着する、という時に一つの問題が浮かび上がった。
「そういえば…あなた、家ではどうしましょう?そのまま皆に紹介しても良いのかしら?」
「そうだよね。料理長やメイド、執事、庭師…家にはたくさんの人がいるから、精霊様を皆に紹介するのは大変そうだし…」
そう言ってお兄様はチラリと精霊を見る。
「…そうだな。俺はあんまり人間と関わりたくない。出来ればお前たち以外には、本来の姿を見せたくない」
「そっかぁ…」
私達の事を受け入れてくれても、不安なのは変わらないよね。
私でもあまり会話をしたことのない使用人だっている。
本当にみんなが信頼できる人なのか、自信を持って言う事は出来なかった。
「それじゃあ、隠れながら家にはいりましょうか?」
そう私が言うと、精霊は首を横に振った。
「いや、この姿でいる事にする」
そう言うと精霊の体が光だし、ポンッと小鳥の姿になった。
「きゃああ!!」
思わず悲鳴をあげるお母様。
「お、お母様落ち着いて!」
精霊もびっくりしたようで、少し焦っているようにも見えた。
「な、なんだ?どこかおかしいか?」
すると、お母様はまた目を輝かせながら「可愛いわ~!」と連呼するのだった。
***
家に着くと、執事長のカールが不思議そうに私の肩を見てきた。
「お嬢様?」
「え、ええ?何かしら?」
「その小鳥は?」
精霊は私の肩に止まっている。
「えっと、湖で拾ったの。とても人懐っこくて可愛くて」
「そうでしたか。ですが小鳥という事はきっと親鳥が湖にいたのではないでしょうか?連れてきてよろしかったので?」
そう言いながら、お父様を見る。
「…う、うむ。その小鳥が来ても良いと言ったのでな」
「はい?」
お父様は自分の発言に『しまった』という顔をした。
「この小鳥ちゃんが、ルーちゃんから離れなかったのよね~。周りを探したけど親鳥もいないようだったし、問題ないと判断して連れて来たの」
お母様が落ち着いてそう説明する。
「左様でしたか。それでは、その小鳥の世話係を誰かつけましょうか?」
「い、いいの!この小鳥は私が育てるの!お父様とお母様にも許可を貰っているわ!」
私がそう言うと、カールは少し涙ぐんだ。
「お嬢様が…そうでしたか、そうでしたか。あのお転婆だったお嬢様も、1つの命を大切に育てるという事が…ふぐぅ。申し訳ありません。近頃、涙腺が弱っておりまして」
そう言いながら目頭を押さえる。
そんなカールに申し訳ないと思いつつ、そそくさと家の中に入った。
***
「お前の家は何だか…凄いな」
「え?そう?」
精霊は目をパチクリさせている。
今は小鳥の姿なので、少し首をかしげる姿が最高に可愛かった。
「じゃあ、早速名前を決めなきゃね!」
そう言うと、お父様とお母様、お兄様が私の部屋に入ってきた。
「考えてみたんだが…1人1つ、名前を考えて気に入った名前を精霊様に選んでもらうのはどうだろうか?」
お父様が意気揚々と言う。
「私は良いけど…精霊さんは、どう?」
精霊はコクリと頷いた。
そして、数分後。
「みんな、用意はいいかい?」
「はい、お父様」
「ではいくよ。せーの!」
そう言って、各々考えた名前を書いた紙を見せ合う。
お父様の考えた名前は『ベニドリ』
お母様の考えた名前は『ルビー』
お兄様の考えた名前は『チュン』
私の考えた名前は『サニー』
「えっと…精霊さん、文字は読める?どうかしら?」
精霊は文字は問題なく読めるようで、ふむふむと皆の書いた紙を見ていた。
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