第25話

すると、私とお父様の体が乾いた。


「えっ!?えっ!?」

私達が驚いていると、精霊は元の場所に降りる。


「俺も乾かしておくか」

そう言って、また体が光始める。

赤と黄色が混ざった色。

とても優しい色で、やっぱり綺麗だった。


「それで?お前たちは俺をどうする気だ?俺の事をどう思う?」

逃げ出そうと思えば逃げ出せそうだが、精霊はドカッと座りこんで聞いてきた。


「え…どう思うって…」

私はお父様、お母様、お兄様の顔を順番に見る。

みんなキラキラした目をしていた。


「「「「綺麗!!!」」」」

思いがけず、皆の声が重なる。


「な…」

精霊はまた照れたように顔を赤くして言葉を失った。


「やっぱり、そうだよね!僕も綺麗だと思った!」

「ええ、ママも思ったわ。とっても綺麗だった」

「そうだな。ルージュが思わず湖に入ってしまったのも納得だ」

「そうでしょう?私も無意識に足が向いていたもの」

「まぁ!ルーちゃん!それでも、今後は気をつけなきゃダメよ」

「う…はーい」

「はははは!」

「お兄様!笑いすぎよ!」

と、そんな話をしていると、精霊は体をプルプルとさせていた。


「お前ら!俺を無視するな!こっちは精霊だぞ!?人間が捕まえようと必死になってる精霊だぞ!?何なんだ!何がしたいんだ!」

怒っている。何だか慣れてきたのか、怒っていても可愛いと思ってしまった。


「何がしたいって…別に何も」

「はぁ?」

「お父様、何がしたいの?」

私がお父様に話を振ると、驚いたように首を横にブンブン振った。


「私は何もしないよ!?というか、精霊様を捕まえてしまったのはルージュだからね!?」

「あ、そっか。そうでしたね。…うーん、私はもっとお話ししたいだけ?というか、出来ればお友達になりたいかな?」

それ以外に思いつかなかった為、そう答える。


「お友達…それだけか?」

「え?…うん、それだけだと思うけど…他に何かあるの?」

「いや。そうか…」

「で、お友達になってくれるの?」

「まぁ、良いだろ。たまに話してやるぐらい」

「嬉しい!ありがとう!」

そう言って指先で精霊の頭を撫でた。


「や、やめろ!何するんだ!」

「だって、ハグしたくても出来ないじゃない」

「はぁ…何なんだ、こいつ」

「あ、私そう言えばクッキー持ってるのよ!待ってて!」

そう言って自分の鞄を取りに走り、すぐ戻る。


「これ、お気に入りのクッキーなの!」

そう言って渡すと、精霊は横目で見ながら溜息をついた。

「何だ、これ?」

「えぇ!?まさか、クッキーを食べた事がないの!?」

「お、おう。食べ物なのか?」

「そうよ!食べてみて!美味しいんだから」

袋から1枚だけ取り出し、精霊に渡す。


「言っとくけど、俺に人間の毒や薬は聞かないぞ?」

「もう!そんなの入れたら私も食べられないじゃない!」

「じゃあ…一口だけ」

そう言って精霊はパクリとクッキーにかぶりついた。


「…!?う、うまい…」

精霊は目をキラキラさせながら夢中で食べている。


それを見て、ホルダー家の4人はまた声が重なるのだった。

「「「「かわいい~!!」」」」


「むっ!?…コホン。なかなか美味いじゃないか」

私達に見られている事を思い出したのか、慌ててクッキーを口から離す。

でも口元にクッキーのカスが付いているのを、私は見逃さなかった。


「ふふ。これ、全部食べていいわよ」

そう言って袋ごと地面に置く。

「い、いいのか!?」

「うん!私は家に帰ればまた焼いてもらえるし。また持ってくるから」

そう言って私はついに立ち上がった。


「ん?もう行くのか?」

「うん、暗くなってきたし…そろそろ帰る時間よね?お母様?」

「そうねぇ…名残惜しいけど、もうそろそろ帰らないと」

お母様はそう言って、残念そうに精霊を見る。


「また来ても良いかしら?精霊様?」

お母様がそう問いかけると、精霊は顔を背けながら『勝手にしろ』と呟いた。

「ああ!もう可愛すぎるわ~!ママ、この子連れて帰りたいぐらいよ~!」

「ちょ、ちょっとお母様!落ち着いて!」

お兄様が慌てて止めた。

お母様は完全に暴走している。


少し心を開いて貰えたのに、連れて帰るなんて発言、また人間不信になったらどうするのよ!

と思いながら精霊を見ると、以外にも目をキラキラさせていた。


「良いのか?」

「え?何が?」

「だから、お前の家、行っても良いのか?」

「え、ええ!?良いの!?」

私が思わず後ずさると、少し照れたような呆れたような顔をした。


「いや、俺が良いのかって聞いてるんだけど」

「わ、私達は良いわよ!むしろ、すっごく嬉しい!けど、良いの?」

「何が?」

「その…この場所から離れて。あなたのお家もここにあるんでしょう?」

「いや、家は別に…まぁ精霊は家を持たないんだよ!」

「そうなのね…じゃあ、今日から家に来る?」

私がそう言って手を差し出すと、人差し指の先を小さい手でギュっと握った。


「おう!よろしく頼む!」

そう言ってニカッと笑った顔を見て、また私達は声を重ねるのだった。

「「「「かわいいいい~!!」」」」

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