第24話

「ルージュ!?大丈夫か!?」

「ゴホッ…ゴホッ…うん、大丈夫」

湖の横でビショビショになったお父様が肩をゆすってくる。


「ああ、もう!ルー!心配したよ!どうして湖に落ちたりなんか…」

「そうよ、ルーちゃん!パパが助けられたから良かったけど、お願いだから気を付けて頂戴!」

お兄様とお母様が涙目でそう訴えた。

「ごめんなさい。声が聞こえた気がして…」

「声…?って、ルージュ?その手に持っているものは何だい?」

お父様の問いかけに、やっと私が何かを握りしめている事が分かった。


「え?何だろう…あっ、そうだ光を見て…」

そう言いながら手を開くと、ボトリと何かが地面に落ちた。

よく見るとそれは、小さな人だった。

正確には人型をしているけど、人じゃないのかもしれない。

耳が尖っていて、羽も生えている。


「えっ!?よよよよ、妖精!?いや、精霊!?」

私が驚いて声を上げると、その人型がハッとしたように起き上がった。


「くっそ…人間か…」

「せせせ精霊なの!?」

私が驚いて声を上げると、その子はうるさそうに耳をふさいだ。


「うるせぇな。そうだよ、精霊だよ。湖の底で岩に挟まって動けなかったんだ。そこで近くのベリーに魔法をかけて、食べたやつに意志疎通を図っていたのさ」

「それで…助けてって声がしたのね…」

「ルー、何か聞こえていたの?」

お兄様が精霊から目を離さずに聞いてきた。


「う。うん。ケーキを食べた時『助けて』って聞こえた気がして…」

「ったく!来るのが遅ぇんだよ!俺の声が聞こえていたなら、すぐに助けやがれ」

「ご、ごめんなさい」

私はとりあえず謝った。


見た事も無い生き物に興味があるが、どうして良いか分からないでいる私達。

お父様とお母様はさっきからポカンと口が開いている状態で、黙っている。


「じゃあな。助けてくれた事に感謝はするが、俺はもう行くぜ」

そう言って羽をパタパタさせている。

飛ぶ準備だろうか?


「え、待ってよ!もうお別れなの?」

「…は?」

「だって、せっかく会えたのに」

私がそう言うと、精霊は不思議そうな顔をした後ニヤリと笑った。


「なるほどな」

「?」

「お前ら人間はいつもそうだ。くだらない噂話をあてにして、精霊を探すやつもいる…はぁ。言っとくがなぁ!!」

「ひゃ、ひゃい!」

小さいがキッと睨んでこちらを指さす姿はどこか威厳があって、思わず背筋が伸びる。


「精霊を食べたら不老不死ってのは嘘だぞ?」

「…うん?」

何を言っているのか分からず、思わずお父様の方を見る。

「あ、ああ。精霊を食べたら不老不死になれる、という噂話は確かにあるよ」

「そうなんだ…」

私がそう言うと、精霊はあきれたように言った。


「何だ、それで探してたんじゃないのか。じゃあアレか?精霊の羽を触ると魔力が増加するってやつ」

「…うん?」

何を言っているのか分からず、思わずお父様の方を見る。

「あ、ああ。精霊の羽を触ると魔力が増加する、という噂話も聞いたことがあるな」

「そうなんだ…」


「何だ。これも違うのか。単純に物珍しさで探していたのか?」

「?私、精霊は別に探してないけど…」

「…は?」

精霊が固まる。


「いやいやいや、じゃあ何で俺を捕まえたんだ」

「えっ!?だって綺麗だったから、あの時は光しか見えなくて思わず掴んじゃったの」

「綺麗って…」

精霊は少し照れくさそうに視線を逸らした。


「というか、精霊の存在もこの湖についてから知ったのよ?」

「そ、そうなのか?」

「うん。ベリーを取ろうとした時にお父様が『全部取ってしまうと自然界や精霊たちがかわいそうだから、少しにしなさい』って。私そこで初めて精霊の存在を知ったんだから」

その話を聞いて、精霊はお父様をじっと見つめた。


「あ…不躾ぶしつけに見てしまい、すみません。私はラウルス=ホルダー。この子の父親です。私も精霊様は初めて見るもので…不快に思われたのでしたら、申し訳ございません」

お父様はそう言って、深々と頭を下げた。


「ふーん。こいつを湖に助けに来たやつか。ホルダー…そうか。三大貴族か」

「えっ!?知ってるの!?」

「い、いや…まぁ精霊はこの国が出来た時もいたからな。俺は当時はここにいなかったが、仲間達から話は聞いてるぜ」

「すごい!私でも最近知ったのに!三大貴族の事!」

「いや、なんでだよ…。お前がその三大貴族だろ」

「そうなんだけど…勉強をサボってて…ね。へへ」

私がそう言って笑うと、精霊はまた呆れたような顔をした。


「お前本当に貴族かよ?」

「な、何よ!いつかは立派なレディになるわよ!」

「そうじゃなくて…貴族って言ったら普通、精霊を売るとかコレクションにするとか…」

「ハックション!…あ、ごめんなさい」

精霊の言葉を遮ってくしゃみが出てしまった。


「はぁ…そうか。人間は濡れると風邪を引くんだったな。ほら」

そう言って、精霊が私とお父様の周りを光りながら飛び始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る