第5話
「ルージュがそこまで考えてくれいたのは凄く嬉しいし、兄としても誇らしく思うよ。…でも、無理はしないで欲しい。何か良くない噂を聞いたのかい?誰が何と言おうと、ルージュは僕の妹だよ?」
まっすぐこちらを見つめるお兄様。
その言葉で、本当に私のせいで何か言われていたのだと気付いた。
「お兄様。本当にごめんなさい…っ」
気が付くと私は涙を流していた。
「ルージュ!?大丈夫かい?」
私は慌てて涙を拭う。
「大丈夫よ。今まで私がワガママだったの。お兄様一人に責任を押し付けるなんて、どうかしてたわ」
「でも、ルージュ…その。家庭教師をつける事、怖くないかい?」
実は5歳の頃に勉強が嫌だと言ったのは、勉強で間違うと家庭教師が持っていた指示棒で机を叩いてくるからだった。
まだ小さい子供だったし、目の前の机をバシッと音を立てて何度も叩かれた事に恐怖を感じた。
だけど、それだけだった。体を殴られた訳でも無かった。
何度か家庭教師をしてもらった後に耐えられなくなってお父様に相談すると、その家庭教師は即解雇になった。
本来であればそこで別の家庭教師を雇うべきだったが、私はもう勉強をする事を拒んでしまったのだ。
それをすんなりと、両親も兄も認めてしまった。
「家庭教師は確かに怖かったわ。だけど、あの人が特別だったのよ。本来あんな風に教育をする人はいないと聞いたし、私も甘えていないでちゃんとした家庭教師に教えて貰いたいと思うの」
私の手を兄が優しく握って、聞いてくれている。
私は握り返しながら自分の想いを伝えた。
「ふふっ…本当ならあの時に家庭教師を変えて、学ぶべきだったのよ?
暴力を受けたわけでもなかったわ。
それでも私の事を気遣って今のままで良しとしてくれたお兄様たちには感謝しているの。
だけどもう10歳にもなったし、私はお兄様の自慢の妹に、お父様とお母様の自慢の娘になりたいの」
そう言ってお兄様の顔を見ると、今にも泣きそうになっていた。
「え、お兄様?」
「…ルージュ。何て良い子なんだっ!」
お兄様が私を抱きしめて、泣き出した。
暫くすると泣き止んで、私を離してくれる。
「ルージュ、君の意見は尊重するよ。確かに、立派なレディーになる為にも教育は受けた方が良いだろうしね。…ただ、忘れないで?どんなルージュでも、私にとっては自慢の妹だよ」
そんなお兄様を見て、今度は私が泣きそうになった。
こんなに優しい兄なのに、どうしてゲームでは気遣えなかったんだろう。
どうして兄の為に家族の為にと行動する事ができなかったのだろう。
「ありがとう、お兄様」
私は感謝を伝えた後、結局少しだけ泣いてしまった。
「お父様にはこれから話すのかい?」
少し落ち着けようと、お兄様の部屋でお茶を飲みながらお話する。
「ええ。体調が良くなれば来るように言われているし、その時にお話しようかと思っているわ」
「そっか…ふふ。なんだか、喋り方まで早速大人っぽくなったんじゃない?」
「当然です!今までの私が身分に相応しい振舞いをしてなかっただけだもの!」
「私も頑張らないといけないね」
お兄様がそう言って笑いながら紅茶をすする。
「お兄様、1つ気になったのだけど…」
「うん?なんだい?」
「お兄様、どうして一人称が『私』なの?今まで『僕』だったじゃない」
「ああ、気付いていたんだね。何だか恥ずかしいな…。私も教育を受けているし、お父様みたいに立派な人になりたいからね。今から慣れておこうかなと」
顔を赤くしながらお兄様は笑う。
「でも、お父様と同じ年齢の方でも『僕』と言う人はいるわ。無理してお父様のようにする必要は無いんじゃない?さっきも『僕』だったり『私』だったりしていたし…私はお兄様らしくしているお兄様が好きよ!」
私がそう伝えると、お兄様は少し驚いた表情をした後に、本当に嬉しそうに優しく笑った。
「そっか。ルージュがそう言ってくれるなら、僕は僕のままでいるよ。ありがとう」
「ふふふ。私は何もしてないじゃない。…じゃあ、そろそろお父様の所に行ってくるわ」
「一人で大丈夫?」
「勿論よ!」
そう伝え、お兄様の部屋を後にした。
私はお父様の部屋に向かいながら一人で考えていた。
そもそも、ゲームでのアレンは一人称が『僕』だったはず。
何となく違和感もあったし指摘しちゃったけど…どうしてゲームと違っていたのかしら?
「あ」
歩いていた足をピタリと止めて、私は思わず声を出した。
思い出した。ゲームでは主人公がアレンに言うんだ。
『あなたらしくしているあなたが、一番好きよ』
実は子供の頃に出会っていた主人公とアレン。
子供の頃に言われた、その言葉がアレンの救いとなっていた。
「あ~…さっき私…」
思いっきり主人公のセリフ取っちゃったわ…
「いや、でももうゲームのシナリオなんて変える気満々だったし!」
そもそもゲームをプレイしていたとは言え、今の私はルージュだ。
これが私の人生であって、主人公の為に悪役令嬢になるつもりは無い。
「そうよ!私の人生だし、自由に生きるわ!それで出来ればTRUE ENDにしてもらうか、そうじゃなくても最悪死なないようにしましょう!」
というかもうゲームという感覚でも無いし、他のエンディングに辿り着く可能性だってあるしね!
「…でも念のため…TRUE ENDは目指しましょう…」
不安になった私は、また独り言を呟き、お父様の部屋へ向かうのだった。
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